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ぼっちQ&A!~ひとりぼっちの地球侵略感想ブログ~

月刊少年サンデー『ゲッサン』にて好評連載中の漫画『ひとりぼっちの地球侵略』について、徒然なるままに感想を書いていくブログです。

『ワールドトリガー』のトリオンって便利だな、という話。

今日は、『ワールドトリガー』のトリオンの便利さに関する説明と、それを考えてて思いついた話を一つ。

・トリオンってめっちゃ便利

ワールドトリガー』を最初に読んだとき、どうみてもハロな相棒レプリカだったりエヴァなタイトルロゴだったりが目立ったので、それはもうSF作品のオマージュネタが入り乱れる濃い作品になるのかと思った。しかし実際はそんなことはなく、理屈をしっかり組み立ててそれを丁寧に説明しながら進む優しさあふれる作品に現状なっている。構造がしっかりしているので色々な角度から考えられる良い漫画なのだけれど、私が個人的に注目しているのはトリオンというアイディア。特にトリガーを起動した際にトリオン体になるという設定だったりする。

物語における戦闘というのはとても楽しい一方で至極厄介な点もある。第一に、現実の戦闘とは違って近接戦、もっと言えば生身で面と向かって闘うことが大抵好まれる。何故かといえば作劇上互いの言葉、感情が伝わり合う距離で戦闘が行われないとキャラクターを活かすことができないからだ。『機動戦士ガンダム』においてミノフスキー粒子という概念を導入してまでレーダーを潰し近接戦のみで戦うよう仕向けたのもこれ由来する面が大きいというのは有名な話だ。しかし現実の戦闘では近接距離で戦闘すると兵士が殺しの感触に怯え士気が下がるし何より死ぬ確率が高くなるので遠距離から攻撃する手段が当然のように採用される。素手から剣、剣から槍、槍から弓、銃、砲、ミサイル、ロボットを駆使してでも兵士自身を相手の攻撃圏内に徹底して入れないことが求められる。当然の話なのだが、しかしそれではキャラクターによる劇が成立しない。だからバトルを描くとき、作家は現実の理屈と作劇上の理屈との間で苦しめられる。結果例えば『機甲猟兵メロウリンク』でメロウリンクは対ATライフルを担いでいても最後は必ずパイルバンカーで決着をつけてしまったりする。切ないぜ~。

第二に、闘うとキャラクターが死ぬ。バトルというのはスリルを求められるものなので出来るなら本気の殺し合いにしたいところなのだがそうすると物語に不可欠なキャラクターがどんどん死んでいく。すると物語の幅が必然狭くなるので作家は困る。本気の戦いをしつつ、しかしキャラクターは死なないという設定を練るかシナリオを上手く進めるしかない。

これらを踏まえた上で『ワールドトリガー』を読むと、まぁトリオン及びトリオン体の便利なこと。まず射撃攻撃はトリオンを多く消費する上トリオン体に点でのダメージしか与えられないので近接攻撃の方が好まれる。これによって近接攻撃が未だ採用される理由が説明されている。そしてトリオン体は生身とは別であるため、闘ってやられても死ぬというわけではない。なのでキャラクターを生かしたまま本気で戦わせ合うことが可能になる。戦闘における諸問題が大体トリオンのおかげで解決されているのだ。これを存分に活かして『ワールドトリガー』ではキャラクターの損失を抑えつつもダイナミックな戦闘を演出できている。

こうした仕組み自体は別に初出ではなく、例えばインターネットや仮想現実を舞台にした作品の戦闘でも似たようなアイディアは存在している。ネットの世界で敗れても本人が死ぬわけではないからだ(結構昔からあるアイディアではあるので、それを逆手に取ったものも沢山ある。SAOとか)。『ワールドトリガー』のトリオンがそれと比較してもなおユニークだったのはネットや仮想現実ではなくあくまで現実の世界・空間でそうしたアイディアを応用できるようにしたことだろう。ボーダーが守っているのは本当の街であり本物の人間だ。だからトリオン体という生身の体の戦闘ではなくても真剣に戦闘をする。生身ではない体という設定から生じる言い訳を丁寧に排除できているのだ(一方で模擬戦では仮想戦場での戦闘が行われており、こちらはこちらでSAOや『AVALON』を思い出させるものになっている)。『ワールドトリガー』という作品の成立について、トリオンを抜きにして語ることはできないほどこの設定はよくできたものだと言えるだろう。

・そういえば、あのオマージュ達って……。

さて、ここで最初のタイトルロゴやレプリカの話題をもう一度引っ張り出すが、それぞれのオマージュ元になった『新世紀エヴァンゲリオン』や『機動戦士ガンダム』もATフィールドやミノフスキー粒子といった設定によってその戦闘が理由づけられている。エヴァでは使徒の保有するバリアであるATフィールドを突破できるのがエヴァンゲリオンしかいないという理由から使徒対EVAという構図が固められていたし、ガンダムの戦闘におけるミノフスキー粒子という設定の重要性は先ほど説明した通りだ。

ここに『ワールドトリガー』のトリオンという設定を並べてみると色々面白いものが見えてくる。一つ目に、トリオン体は同じトリオンでしか大したダメージを与えることができないため、トリオンを駆使する敵に対しボーダーだけが立ち向かえるという状況が成り立っているのだが、これはATフィールドによってもたらされた使徒対EVAという構図の理屈と似通っている。二つ目に、『機動戦士ガンダム』におけるミノフスキー粒子による近接戦闘の必要性も、『ワールドトリガー』でのトリオン体により効率よく大きなダメージを与えられるという理由から近接戦闘が好まれるという設定と共通した部分がある。タイトルロゴやレプリカのデザイン以降、それと一目で分かるオマージュは『ワールドトリガー』の中では話題になっていないが、少なくとも現在出ているガンダムエヴァに関してはSF作品のバトルシーンならではの”戦闘に伴う作劇上の諸問題を設定によって解決する”という手法においてこのように幾つか共通点を見出すことができるのだ。

ワールドトリガー』という物語はトリオンという設定によって成り立っている。その『ワールドトリガー』がエヴァガンダムを分かりやすくオマージュして見せた理由、それは戦闘に伴う作劇上の諸問題を設定によって解決してきた過去のSF作品への敬意の表れであったのかもしれない。『ワールドトリガー』は今に残る彼らの子孫であり、また未来へ続く新しい境地を切り開いた先駆者として大いに私たちを楽しませてくれているのだ。