ぼっちQ&A!~ひとりぼっちの地球侵略感想ブログ~

月刊少年サンデー『ゲッサン』にて好評連載中の漫画『ひとりぼっちの地球侵略』について、徒然なるままに感想を書いていくブログです。

ひとりぼっちの地球侵略13巻を改めてじっくり読み直してみた(後編:マハヤ王編)。

※こちらは後編です。前編はこちらからお読みください。

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こんにちは、さいむです。

今回は、『ひとりぼっちの地球侵略』13巻について、

・【前編:暁行編】

・【後編:マハヤ王編】

の前後編に分けた解説を行っていきます。結構長くなると思いますが、よろしくお願いします。

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・大鳥先輩に”男らしさ”を教えるマハヤ王

後編はマハヤ王編ということで、ストラスモア・ヴァロマハヤ・クラシコ・オルベリオを中心とした解説を行っていきたいと思います。作中における彼の役割を読み解くことで、13巻における大鳥先輩や広瀬くんの言動の意味もより理解できるようになっていくので、その意味ではとても重要なキャラクターです。

マハヤ王の初登場は12巻の終盤なので、まずはそこから見ていきましょう。マハヤ王は、キルシスの宇宙人が発したオルベリオ語によって残された種から初登場しました。大鳥先輩をマナと呼んで抱きしめた後、心臓が広瀬くんの元に残されていることに激昂し攻撃するものの、思念から解放された大鳥先輩によって撃退されています。

ここの初登場は12巻単体においては別段大きな意味を持ちませんでしたが、13巻によってかなり強い意味付けがなされています。それは、マハヤ王こそが「大鳥先輩に男女の恋愛という概念を体感させた人物である」ということなのです。

ちょっとヤバい内容ですが、落ち着いて13巻の序盤を注目してみましょう。大鳥先輩達がアイラの自宅に集まった際、広瀬くんが筋トレしていたことを大鳥先輩が糾弾すると、広瀬くんは大鳥先輩にマハヤ王に抱きついたことを責め返します。

「先輩だって抱きついてたし…やっぱ背高くて格好いい方が好きなんだろ…」

「わっ、私だって別に! 抱きつきたくて抱きついたわけじゃ…………ないもん…」

ここで重要なのは、元々大鳥先輩は恋愛だの好き嫌いだのに全く理解を示していなかったということです。しかし、このシーンでは明らかに頬を染めてそのことを恥じているような様子が窺えます。9巻では針山の好意に対して全く理解を示せず、12巻でもゾキ戦まではそのような様子は見られません(105Pで抱き合って慰め合っていたり121Pで額にキスしていたりしますが、せいぜい広瀬くんが恥ずかしがる程度のものでハッキリ恋愛の形にはなっていません)。

では、何によって大鳥先輩はそれを理解したのか。演出やタイミングから考える限り、それはマハヤ王が大鳥先輩を抱きしめたときであると考えられるのです。マハヤ王は大鳥先輩をマナと呼んでいました。これは、大鳥先輩やマーヤのオリジナルとなった存在であると考えられます。マハヤ王とマナが具体的にどのような関係であったかは分かりませんが、マハヤ王の台詞を読む限り相思相愛であった可能性は高いでしょう。つまり、大鳥先輩はマナの役割を担わされる形で、マハヤ王を愛しているかのような行動を取らされてしまい、その過程で誰かを愛するという行動の仕方を学んでしまったのです。先に挙げた台詞からも大鳥先輩がそのときのことを忘れているようには見えないので、思念にとらわれている最中でも自分が何をしているかということ自体は分かっていたのでしょう。半ば意識がある状態でマナの役割を担わされたことで、大鳥先輩は恋愛のなんたるかを教え込まれてしまった形になるのです。その後大鳥先輩はマハヤ王に対して強い嫌悪感を覚えるようになっているので、思念にとらわれていない状態の大鳥先輩にとって、彼は本当に気持ち悪かったのでしょう。ええ。

余談ですが、こうしたマハヤ王の在り方は、小川麻衣子先生の百合漫画『魚の見る夢』に登場する周防姉妹の父親と非常に似通っている部分があります。周防姉妹の父親が周防御影のことを「か え で」と妻の名前で呼んでしまう場面(彼は次女の御影に対し亡くなった妻の面影を見出してしまっています)と、マハヤ王が大鳥先輩のことをマナと呼ぶ場面はほぼ同じ意味合いで捉えることができるわけです。今はもう亡い伴侶の面影を、代わりとなりうる何者かにそのまま追い求めようとする気持ち悪さですね。この二人を比較することで、マハヤ王が如何にヤバい奴か分かりやすくなりますので、『魚の見る夢』をお持ちの方はぜひお試しください。

閑話休題、このように物語上の意味合いを考えるとかなり気持ち悪いことをしているマハヤ王ですが、この行動が無ければ13巻はある意味ラブコメとして機能しなくなっている筈なので、この演出も必要なものとして配置されたのだと考えられます。というのも、広瀬くんによる大鳥先輩へのアプローチ自体が、このマハヤ王や暁行と対比される形で行われているからです。

広瀬くんが筋トレを始めたのはマハヤ王の”男らしさ”に少しでも対抗しようとしたためですし、第63話で抱きしめようだのなんだのとしようとしたのは自分が暁行になびいてしまっているわけではないことを大鳥先輩に示そうとしたためでもあります。勿論暁行に抵抗していた側面もありますが、タイミングとしてはマハヤ王が先であり、暁行本人も別に広瀬くん達と対立しているわけではない以上、最終的にはマハヤ王と広瀬くんの対決に収束していくと思われます。

これらを踏まえた上で、122Pで大鳥先輩が広瀬くんの背が伸びたことに気づくシーンは、広瀬くんからのアプローチとはやや言いにくいものの、マハヤ王が大鳥先輩に理解させた”男らしさ”に対する広瀬くんなり(大鳥先輩なり)の回答と言うことができます。マハヤ王より背が低く筋肉もない広瀬くんですが、それでも1年の歳月を経て、大鳥先輩よりも背が高くなっていたのです。マハヤ王の”男らしさ”は完成されたものですが、逆に言えばそれ以上変化することも成長することもありません。一方で、広瀬くんのそれは大鳥先輩と共に一年を過ごす中で獲得されたものであり、しかも大鳥先輩の背丈と見比べることでしか確認することができません。これは大鳥先輩にだけ分かる大鳥先輩にとっての広瀬くんの”男らしさ”であり、先んじて完成されている”男らしさ”を見せたマハヤ王に対するアンサーとして成立しているのです。

・継がせない、譲らない者としてのマハヤ王

ここまで、マハヤ王の初登場時に付与された意味合いについて解説してきました。では、マハヤ王が大鳥先輩達の敵として背負った全体的なテーマとは何なのでしょうか。それは、「大鳥先輩達の先祖として、彼らに後を継がせない、譲らない(赦さない)というものです。12巻までの(1年目の)ボスだったゾキ(凪)は「過去からの繋がりを否定し、それを破壊する」ことをテーマとし、大鳥先輩達と対立しました。彼の設定を踏襲した暁行は、それとは真逆に何かを受け継いで生きていくことを自らに課しています。この方面でのアプローチが12巻までで一段落ついたのであれば、次はその逆として「そもそも彼らの親・先祖が継ぐことを赦さなかったら」というテーマが生まれうるのです。それを体現したのがマハヤ王であると言えるでしょう。

これは先述した初登場のシーンもそうですが、99Pで大鳥先輩がマハヤ王に託された使命を思い出すシーンも該当します。暁行やマハヤ王によって関係が乱される中で、広瀬くんと大鳥先輩がお互いに拠り所としていたものの一つが、12巻で確認し合った約束です。しかし、約束というのであればそもそもマハヤ王に託された使命の方が先に存在しています。普通は先にした約束を果たす方が大事ですから、約束というものを根拠に広瀬くんと共にいたいと思うのであれば、大鳥先輩はまずマハヤ王との約束を果たさなければ筋が通っていません。使命の存在が、二人の約束を赦さないのです。だからこそ、この直後大鳥先輩は約束(二人で一緒に地球を征服する≒そのために広瀬くんと暁行が結婚する)を蔑ろにしてでも広瀬くんと一緒にいたいだけなのだと告白することになるのです。

実のところ、このテーマは暁行も一部背負っているテーマではあります。暁行は広瀬くんが自分と結婚しない限りは地球を王にさせるつもりはないと言っています。27Pでアイラのおばあちゃんが過去の地球の王に関して言及している以上、広瀬くんは地球の王という立場を継ぐ存在であるとも考えられます。喫茶店の跡を継ぎながら地球の王も継ぐというのは何だか二足の草鞋を履いているような感じなので、仮に彼が地球の王になったとしても最後までそのまま王であり続けるのかは分かりませんが、暁行はある意味でそこに試練を課しているキャラクターであると言えるのです。もっとも、暁行自身が何かを継ぐという行為を体現している人物であることからも、マハヤ王のように完全に否定することはまずないでしょう。現在を生きる大鳥先輩達を完全に否定しようとしているマハヤ王こそが、恐らくはこの最終章のラスボスとなるに相応しい存在なのです。

このテーマによって、前編の暁行編で解説した「2年目のぼっち侵略」の意図も明らかになります。つまり、マハヤ王が1年目のラスボスであったゾキとは逆のテーマであることを示すために、1年目とは逆の構図で「2年目のぼっち侵略」を描いてみせたのです。暁行の存在も同様で、凪を彷彿とさせる設定でありながら広瀬くん達と同じ価値観を標榜する、逆の構図となっています。そして暁行が広瀬くんが地球の王を継ぐことに対して試練を課すこともまた、マハヤ王の持つテーマと繋がっていたのです。

・大鳥先輩や広瀬くんの、マハヤ王への対抗策

そうなると、大鳥先輩や広瀬くんは、マハヤ王に対してどのように立ち向かえばいいのでしょうか。大事なことは、何かを継いで生きていくという行為は、元の人間が遺した、託したものでなければならないということです。つまり、マハヤ王が最終的に大鳥先輩達を認めない限り、この問題は解決しないことになります。マハヤ王の心が揺れる何らかの要因が何処かにある筈なのです。

その一つが、13巻の軸になっているブコメです。13巻は帯でもラブコメであることを強調していますが、13巻におけるラブコメは12巻までのそれとは違い、まさに大鳥先輩や広瀬くんなりの恋愛を突き詰める話にもなっています。例えば、キスに関しては2~3巻では大鳥先輩にとっての「仲間」という未熟な認識を保護するものでした。一方で13巻のキスは(暁行に対抗する面もありますが)大鳥先輩が求める男女の関係の具体化になっています。先述した広瀬くんの背丈についても同様で、大鳥先輩の考える広瀬くんの”男らしさ”の具体化です。大鳥先輩と広瀬くんのそれぞれのこだわりまで掘り下げているわけですが、これがマハヤ王に対する突破口になりうる可能性があります。

元々”男らしさ”を教えたのはマハヤ王なのに何故これが突破口になりうるのかと言えば、そもそも今のマハヤ王は死んだ後の存在である可能性が高いからです。以前マーヤの回想にもマハヤ王は出てきましたが、そのときの彼はヨボヨボに年老いた姿でした。12巻で登場した際も大鳥先輩に攻撃されれば簡単にかき消える程度の思念でしかありません。この二つを組み合わせて考えると、マハヤ王自身の年老いた肉体はオルベリオ星の爆発と共に消滅しており、現在の彼は思念だけの存在になっている可能性が高いのです。オルベリオの魔法は可能性を現実に変える力である以上、思念であっても実体を持つことは不思議ではありませんが、逆に言えばどんなに全盛期の姿を実体として保っていても、それはあくまで思念なのです。だからこそ、マハヤ王が先手を取った上でもなお、生きた人間である広瀬くんなりの”男らしさ”を見出していくラブコメが重要となったのです。現実に生きていてそこにいる、成長を続けていく広瀬くんと、完成しているが故に成長することもないつての姿に固執する、肉体を失ったマハヤ王。これがマハヤ王が折れる要因の一つとなっているのです。どれだけ頑張っても、マハヤ王にもう元の体はないのですから。

勿論これだけが確実な要因であるとは限りませんが、大鳥先輩と広瀬くんの恋愛の成就が間違いなくマハヤ王の心を折るための鍵の一つになる筈です。しっかり見守っていく必要があるでしょう。

 ・まとめ

最後に、【暁行編】と【マハヤ王編】を通しての13巻のまとめをしたいと思います。

まず、「後を継がず、繋がりを破壊する」ゾキとは逆のアプローチとして、「後を継がせず、譲らない」マハヤ王が新たな敵として立ちふさがります。次に、マハヤ王がゾキとは逆のテーマであることを示すために、1年目の内容を逆の構図でなぞる2年目のぼっち侵略が展開されます。その際、いなくなった凪の穴を埋めつつ物語をより掘り下げるために暁行も登場します。そして、大鳥先輩は広瀬くんから彼なりの”男らしさ”を見出そうとすることで、マハヤ王の完成された”男らしさ”に抵抗しようとします。それを含めた広瀬くん達のやり取りが、13巻全体を取り巻くラブコメを形作っていったのです。

13巻は12巻までと一転してラブコメ色が強くなるなど、動きの激しい内容になっていましたが、こうしたテーマの掘り下げを行っていくと、いつも通りのぼっち侵略が顔を出します。総じて12巻までの積み重ねがあってこその濃いお話になっており、読めば読むほどに味の出る仕上がりだったと言えるでしょう(実際こうして内容をまとめるのにもかなり苦労しました……)。連れ去られてしまった大鳥先輩どうなってしまうのか気にあるところではありますが、14巻の展開を楽しみに待ちたいと思います。

 

以上で、13巻の読み直しは終了となります。今回の記事は、本来はざっくりまとめの続きとして書く予定のものだったのですが、13巻の構造全体に関する発見が思っていたよりも多かったために、こうして新しく記事にすることにしました。ざっくりまとめの続きを楽しみにされていた方は申し訳ありません。結果的にざっくりまとめに書き足す予定の内容よりも大幅なボリュームアップとなりましたので、それで許して頂ければと思います……。

今年のぼっち侵略ブログの更新は以上となります。また来年にお会いしましょう。ではでは。

ひとりぼっちの地球侵略13巻を改めてじっくり読み直してみた(前編:暁行編)。

こんにちは、さいむです。

今回は、『ひとりぼっちの地球侵略』13巻について、

・【前編:暁行編】

・【後編:マハヤ王編】

の前後編に分けた解説を行っていきます。結構長くなると思いますが、よろしくお願いします。

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・12巻の後半から始まる「2年目のぼっち侵略」

さて、前編は暁行というキャラクターを軸にぼっち侵略13巻の内容を読みこんでいくわけですが、そのためにはまず13巻が「2年目のぼっち侵略」であることを抑えておかなければなりません。「2年目ぼっち侵略」とは何なのか、それは第59話「新学期の到来」から始まる12巻の後半を読むことで分かります。

ゾキとの対決が終わって数ヶ月後、腕も復活した大鳥先輩と広瀬くんは青箱高校で再会します。その直後にキルシスの宇宙人から攻撃を受ける中で、広瀬くんは大鳥先輩に港を封鎖するという決意を宣言し、力を貸してほしいと言います。

更に、大鳥先輩の秘密基地にマハヤ王の幻影が登場した後、広瀬くんは自分と共に地球を征服する約束を大鳥先輩とします。

マハヤ王に関しては後述するとして、ここでは142Pで「春うららかに、2年目の風が吹く…」というモノローグが入っていることが重要です。確かに2年目という言葉は使われていますが、この2年目とはどういう意味なのでしょうか。それは12巻の後半における演出を、1巻のそれと比較することで明らかになります。

ぼっち侵略1巻では、ゴズ星系の宇宙人を大鳥先輩が倒すことになり、その過程で広瀬くんが大鳥先輩に提案された約束を承諾します。それに対し、第59話ではキルシスの宇宙人を広瀬くんが倒し、更に第60話では広瀬くんの方から「俺と一緒に地球を征服しようぜ!」と1巻の約束を再確認する形で大鳥先輩に呼びかけます。

つまり、最初に出てきた宇宙人を倒す役割と、地球征服の提案の立場が1巻と12巻では逆転しているのです。実は、2年目と称された第59話からの展開は、1巻からの大鳥先輩達のやり取りを、立場や構図が反転した状態で繰り返しているのです。

その意図についてはマハヤ王編に譲るとして、前編ではひとまず13巻における2年目の描写を追っていきたいと思います。

地球の依り代として暁行が登場した第61話では、暁行が広瀬くんにキスをし、それを大鳥先輩が目撃します。その後大鳥先輩は地球に広瀬くんを取られてしまうという焦りからか、広瀬くんを押し倒そうとするかのような行動を取り、それが広瀬くんに突っぱねられると拗ねてしまいます。

こうした大鳥先輩のキスに関する一連の拗ね方は、実は2~3巻におけるキス、及びキスを巡る古賀さんとの一連のやり取りと対比することが可能となっています。当時の大鳥先輩はキスをしたことを自身と広瀬くんとの関係の証明とし、また古賀さんを含めた学校のみんなも守ろうとする広瀬くんの行動に対し、「自分の仲間になったのではないのか(なのに地球人の味方をするのか)」と拗ねてしまっていました。今回の大鳥先輩は反対に、暁行が広瀬くんとキスをしてしまい、また広瀬くんが地球の王となる(地球を征服する)に際して暁行と結婚するという提案が出されたことで、暁行に広瀬くんを奪われてしまうのではないか、という焦りがあります。そのため、大鳥先輩は広瀬くんと自分の関係の証としての「キス」を広瀬くんに求めているのです。

このキスは2~3巻の頃の大鳥先輩が抱いていた「仲間」という未熟な関係の認識を保護するものでは無く、12巻までの成長を経て、広瀬くんと大鳥先輩が互いのことをしっかりと思い合うようになったことの証としてのキスとなっています。これはこれまでの大鳥先輩達の成長が見られる部分でもありますが、一方でそれを2~3巻とは逆の構図として見せることで、12巻後半における1巻とは逆の構図となっている演出と繋がっているように見せてもいるのです。

次に4巻は一旦飛ばして、5巻にあたる描写が124Pに存在します。広瀬くんが大鳥先輩にタオルを渡す場面です。タオルを渡されただけなのに大鳥先輩はやけにときめいていますが、これには理由があります。

5巻第23話「休息日」では、古賀さんが広瀬くんの腕にハンカチを巻いてあげるシーンがあります。これよりも前に大鳥先輩は広瀬くんの胸に傷がないこと惜しんでいたりと、広瀬くんと自分が仲間であること(何らかの関係にあること)の証を探そうとしていました(※胸の傷に関しては広瀬くんに他の人が寄って来なくなるからという意味合いもあります)。丁度その時に古賀さんがハンカチを巻く様子を見て嫉妬し、後々自分もハンカチを広瀬くんの腕に巻いて見せようとします。5巻では他にも、眼鏡が外れた龍介がアイラの髪の毛をタオルでふいてあげるシーンがあったりと、やたらこの手のシーンが魅力的に描かれているわけですが、13巻で広瀬くんがタオルを渡すシーンもその流れを踏襲していると言っていいでしょう。この場合は今までと逆で広瀬くんが大鳥先輩にタオルを渡す構図になっており、この点でも12巻終盤から今までの演出と繋がりがあることが分かります。広瀬くんは暁行の側に行ってしまったのではなく、あくまで大鳥先輩のことを思って行動しようとしている、ということの証になっているのです。

で、4巻についてなのですが、これは第66話「零への調和」が該当します。今まで分からなかった、「大鳥先輩が目覚めてから広瀬くんに出会うまでの期間」が明らかになる回想ですね。広瀬くんではなく大鳥先輩視点からの回想であり、10年前の大鳥先輩が一度死んだ上での、現在の大鳥先輩が如何にして”生まれてきたか”という話でもあります。7巻でも言及されていましたが、大鳥先輩は一度心臓を失った際に記憶を失い、アイラのおばあちゃんからも情報としてしか過去の出来事を知ることができませんでした。今の大鳥先輩が昔の彼女とは断絶された存在である以上、この回想は現在の大鳥先輩が生まれたときの話であり、マハヤ王編で後述する10年前の大鳥先輩がマハヤ王から授かった使命(約束)に関する記憶との対比でもあるわけです。

・「2年目のぼっち侵略」における暁行の役割

さて、13巻で描かれている、1巻からの流れと対比できる演出で主だったものは以上になります。6巻以降に関しては、13巻巻末の次巻予告から察するに14巻で描かれるでしょう。では、これらを踏まえた上で、暁行の13巻における役割について考えていきましょう。

まずは暁行の紹介から。藤代暁行は隠れ目男子小学生。彼の先祖は、霊脈孔という地球の巨大な精神エネルギーが流れる洞窟湖の水を飲んだことがきっかけで地球の意思の依代となり、暁行が現在その役目を背負っています。地球の意思とは何なのかという話ですが、まぁざっくり言えばガイア理論ですね。

ガイア理論 - Wikipedia

ガイア理論(ガイアりろん)とは、地球生物が相互に関係し合い環境を作り上げていることを、ある種の「巨大な生命体」と見なす仮説である。ガイア仮説ともいう。

地球の意思は広瀬くんが地球の王になろうとしていると聞きつけ、暁行の体を依代として登場。広瀬くんが地球の王となるためには自分と結婚する必要がある、と言い出します。大雑把な概要はこんなところですね。

暁行の紹介が終わったところで、彼の一つ目の役割を説明しましょう。それは、単純に作品全体の設定を掘り下げるためです。ゾキもいなくなり、新しく現れたマハヤ王もまだふにゃふにゃしてたり消えたりで色々喋ってくれなさそうな現在、、物語を進めていくためには港やほしのきおく、アルシャの成り立ちについてなどの情報を握っているキャラクターが必要になります。暁行にその役割が課せられたのです。

勿論、そうした情報を話すだけならアイラのおばあちゃん(地味に今回ポール・ハピ―が本名であると確定しましたね。初出は3巻です)が話せばいいのですが、そうはなりませんでした。それは、彼が担っている役割が他にもあるからです。

二つ目の役割は、大鳥先輩が地球で生きていってもいいのか、という問題への赦しや、広瀬くんが地球侵略をするための目標の確定です。地球の意思というものを人の形で用意することで、これらの問題の解決への道のりが開けてくるのです。

ぼっち侵略は元々、キャラクターの背負っている罪(問題)に関してきっちり追及を行っていく漫画です。7巻でも、大鳥先輩が松横市の人々を間接的に殺めたことについての問答が凪と広瀬くんの間でありましたし、その凪が12巻で命を落とした背景には、ゾキが松横市の人々を殺めたこと、また凪がそれを広瀬くんの決心を固めさせるために利用してしまったことも一因となっています。大鳥先輩自身の場合、地球侵略を目的としていた宇宙人が地球で生きていっていいのか、仲間や他人というものを全く知らなかった人間が誰かと一緒にいようとしていいのか、という問題が1巻の頃から設定されていました。12巻のざっくりまとめで書いたように、こうした問題は大鳥先輩の内面においてはほぼクリアされています。そうなると次は、それを誰が認めるのか、あるいは保証するのかという問題が立ちふさがるわけですが、暁行さえそれを容認するのであればこの問題も解決されるのです。ぼっち侵略は松横市という狭い空間を舞台として描かれてきた物語です。暁行を登場させることで、物語の設定の解決までに必要となる手順やキャラクター数を絞っているのでしょう。広瀬くんの地球征服の方法についても言わずもがなです。

三つ目の役割は、凪が担っていたテーマの引継ぎです。そもそも暁行と凪は、お互い何かに寄生されており、時々それと人格が入れ替わる、という点で設定が似ています。恐らくこれは意図的なものでしょうが、一方で凪と暁行には対照的な側面も存在します。凪とゾキは家族や伝統といったものを受け継がず、あるいは破壊するという方針については一致しており、それが何かを継いでいく決心を固めたアイラや大鳥先輩、広瀬くんとのテーマ的な対立にもなっていました。暁行の場合、彼が地球の意思の依代になった原因は先祖にある、という部分がポイントになってきます。地球の依代としてではなく暁行本人として物語に初登場したとき、彼はこう言います。

「先祖から引き継がれてきた家の仕事も、突然与えられるぼくのものじゃない力も、すべてが許容範囲を超えていて…ぼくが受け継ぐことができるのでしょうか。」

アイラはそれに対してやりたければやればいいし、やりたくないならやらなければいいと返答するのですが、次のページで広瀬くんとアイラはやけにドヤ顔いい顔をしています。自分達がそうしてきたことで得られたものがあると分かっているからこその、確信に満ちた表情と言えるでしょう。結果として暁行は先祖代々の役割を現状全うしており、また地球の意思も地球を守るために行動を起こそうとしています。暁行は凪を彷彿とさせる設定を背負いながらも、その上で広瀬くん達の側で歩んでいけるように再設計されたキャラクターとも考えられるわけです。

さて、ここまで述べてきた役割と、「2年目のぼっち侵略」の内容を合わせて考えると、暁行というキャラクターの総合的な役割が見えてきます。実は、2年目を始めるにあたって大きな問題が一つありました。それは凪がもういない、ということです。凪及びゾキはそれぞれの役割やテーマをきっちり使い果たして退場したので、何かしら別のキャラクターをそこに補填しなければなりません。そこで、凪を重ねられるような設定にしつつも、広瀬くん達の側に立つ存在として暁行を登場させ、1年目とは逆の構図で繰り返される2年目のぼっち侵略を展開するために、必要な役割を担わせていったのです。

 

以上が、ぼっち侵略13巻読み直しの暁行編になります。内容をまとめると、ぼっち侵略12巻の後半から2年目として1年目の展開を構図を逆にしつつなぞっていき、暁行もそのために新たに配置されたキャラクターだと考えられる、ということになります。ただ、ここまでの解説では、2年目を逆の構図にしたのか、という疑問が残ると思います。その答えは、後半のマハヤ王編で解説したいと思います。

 

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