ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

今から読みたい方のための『ひとりぼっちの地球侵略』紹介!

こんにちは、さいむです。

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今回は、『ひとりぼっちの地球侵略』(以下ぼっち侵略)について、今からでもぼっち侵略を読みたい!という方々のために、この作品の紹介を改めてしていきたいと思います。よろしくお願いします。

・『ひとりぼっちの地球侵略』とは?

ぼっち侵略は、月刊漫画雑誌『ゲッサン』で小川麻衣子先生が6年間にわたって連載していた全15巻のSFボーイミーツガール漫画です。下記のリンク先から第1話が試し読みできるので、まずはこちらからお読みください。

gekkansunday.net

 

では次に、第一話のあらすじ紹介に移りましょう。


主人公広瀬岬一(以下広瀬くん)は高校の入学式の朝、仮面を被った謎の少女に校門で突如命を狙われる。事なきを得た広瀬くんだったが、その後胸にあった古傷が消えていることに気付き屋上で少女を問い質す。彼女は大鳥希(以下大鳥先輩)と名乗り、自分が宇宙人であること、そして岬一の胸には10年前彼が瀕死になった際に埋め込んだ自分の心臓があることを明かす。君はもう自分と同じ宇宙人なのだから地球侵略をしようと誘う大鳥先輩を、広瀬くんは拒絶する。彼には祖父の経営する喫茶店を継ぐという夢があったからだ。帰宅して祖父の手伝いを始める広瀬くん。しかしその夜別の宇宙人が出現、祖父を体内に呑んでしまう。恐怖で震える広瀬くんの心臓へと迫る宇宙人。そこに大鳥先輩がふらりと現れ、仲間になるのなら祖父を救いこの街の住民も守ってあげると笑顔で告げる。広瀬くんが怒りを覚えつつも承諾すると、大鳥先輩は一気に宇宙人を圧倒していく。お前は何者だと問う広瀬くんに大鳥先輩は答える。宇宙でただ一人のあなたの味方であると――。

 

あらすじだけを追ってみるとそこそこシリアスな物語にも思えますが、実際に読むと、小川麻衣子先生の柔らかなタッチで描かれるキャラクターたちによってシリアスさが上手く中和されており、ふわりと読み進めることができます。SFでありつつもキャラクターの魅力や、繊細で奥深い描写を楽しめる作品に仕上がっています。

・ぼっち侵略三つのオススメポイント!

続いて、本作のオススメポイントを三つほど解説しましょう。
最初に挙げたいのは、やはりかわいらしく表情豊かなキャラクターたちでしょう。小川先生は自身が影響を受けた作家の一人に『ポケットモンスターSPECIAL』の真斗先生を挙げておられます。その真斗先生に通ずるものがあるのか、ぼっち侵略でも可愛らしくあどけなさが残る登場人物のやり取りが微笑ましいです。また、迫り来る敵宇宙人や少しずつ明らかになる地球侵略の真実と相対するとき、登場人物が見せる大人びた表情も格好良くてぐっとくるものがあります。
表紙を飾るカラーイラストも、ぼっち侵略の魅力を語る上では欠かせません。ぼっち侵略は表表紙から裏表紙までが一枚のイラストで構成されているため、実際に紙の本を買うことで初めて全体像を把握することができます。カバーを外して広げてみると、特に背景を彩る鮮やかな色彩が目を惹きます。実は大鳥先輩達の制服は、そのカラーリングがカラーイラストではあまり統一されていません。各巻で制服の色合いがそれと見て分かるほど違うこともあります。が、それを背景も含めたイラスト全体で眺めると、これが毎回驚くほどマッチングしているのです。この表紙をよく眺めるために毎巻買っている読者もいらっしゃるほどなので、是非一度表紙を見てみて、全体像までしっかり観察したい場合は本屋で購入されることをおすすめします。
三つ目のポイントは、先述した絵柄から醸し出される緩やかな空気感と、それに平行する形で描かれる綿密で細やかな演出です。そしてこれこそが、私がこの漫画を読み続けてきた理由でもあります。ぼっち侵略はその絵柄の性質上、一コマ一コマの時間の流れが緩やかに感じられます。そこから生まれる独特の空気感から、一見して本作の物語はゆっくりと流れていく日常をふんわりと描くことに特化したものになっているようにも読めます。しかし、そこで描写されている演出は、絵柄からは想像もつかないほどに細部へのこだわりが見られ、一切の段取りを間違えない徹底的なロジックによって成り立っています。地面に降り積もっていく雪の中へ手を差し入れると、それを形作る雪の結晶の構造が突如として露わになるような、そんなギャップがこの作品には存在します。この不釣り合いにも思える絵柄と演出の見事な融合によって、ぼっち侵略は優しさと厳しさ、大らかさと細やかを兼ね備えた作品へと昇華されているのです。

・1巻から分かる、ぼっち侵略のテーマとは?(1巻ネタバレ注意!)

オススメポイント三つを紹介したところで、このぼっち侵略という作品のテーマについて紹介していこうと思います。思いますが、ここからは1巻の内容全体のネタバレを含みますので、そちらが許容できる方は引き続きお読み頂き、そうでない方は1巻を購入なされてから読んで頂ければ幸いです

 

※※※

 

……では、参りましょう。
さて、1巻を読まれた方の中には、「大鳥先輩は広瀬くんを仲間にできたのだからタイトルがウソになっているのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、大鳥先輩が抱える「ひとりぼっち」は私たちが普段思い浮かべるようなものとは少し異なっています。
大鳥先輩は広瀬くんの目の前で宇宙人を倒した後、自分の身の上を語ります。その際、彼女は地球に余計な細菌等を持ち込ませないため機械によって育てられ、人らしい人と今まで会ったことがないと告白します。これはつまり、大鳥先輩は”他人”(彼女の言葉を借りるなら仲間)というものに今まで会ったことがない、ということを意味します。地球人は大鳥先輩にとっては侵略する星に住む原住民に過ぎず、そのため彼女は学校生活を日々適当に過ごしています。彼女の「ひとりぼっち」とは、そもそも他人が一体何なのか分からない、自らの孤独の意味すらも朧気な状態のことを指すのです。機械からの情報だけで成長してきた大鳥先輩がこの「ひとりぼっち」から抜け出すには、そもそも他人というものが何なのか、その誰かと出会うことで学んでいくしかありません。しかし、地球侵略という使命のために、彼女はそのチャンスすら禄に与えられないままになってしまうのです。
また、大鳥先輩は地球侵略という使命を死ぬまで一人でこなすために地球にやってきた、というモノローグもこの身の上話では挿入されます。これは要するに、大鳥先輩は地球侵略の内容がどのようなものか、あるいは地球侵略それ自体の成否にかかわらず最期まで地球に居続けなければならないことを意味しています。しかし、そうやって地球で、地球人に囲まれて生き延びていくには大鳥先輩は一人きりで育てられすぎています。そしてそれは、地球侵略という使命を土台にしている以上、彼女が抱えた罪でもあります。大鳥先輩は他者が分からないまま他者を欲するが故に他者を傷つけてしまいます。しかも、それで他者が傷ついているのかどうか、それすらも分かりません。大鳥先輩の「ひとりぼっち」とは、いわば「地球侵略にやってきた宇宙人」という生まれが彼女自身にもたらした罪の証でもあるのです。
それに対して、広瀬くんは地球侵略や宇宙人であることに弱い想像力で手を差し伸べようとはしても、宇宙人であること自体に興味や好意を持ちません。しかも、彼自身の目指す未来は喫茶店を継ぐという一点で完成しています。これは凄く重要なことで、つまり彼は大鳥先輩が宇宙人であることをさほど重要視しないのです。だからこそ、広瀬くんは大鳥先輩と一緒にいることができます。大鳥先輩のような「オルベリオ人でなければ仲間とは思えない」、というような考えを広瀬くんは持たないのです。ではどうなるかというと、実はそれだけで大鳥先輩の罪が赦されていくための土台が完成してしまうのです。
ぼっち侵略は、大鳥先輩が宇宙人であること、地球侵略をしに来たこと、そして「ひとりぼっち」であることを赦されていく物語であると言えます。しかし、人が赦されるためには本来その罪の告白と糾弾が必要不可欠で、かつ1巻の大鳥先輩は見ての通り、そうした告白や球団に耐えられないほど脆く、弱い存在です。だからこそ、広瀬くんはすぐに結果を求めることなく大鳥先輩の隣に居続けます。誰かを赦すということ、その必要最小限の行為が、ただ隣に一緒にいてあげることだからなのです。そうして広瀬くんと一緒に日々を過ごす中で、まさに1巻で広瀬くんを通して他人という存在を知ったように、大鳥先輩は少しずつ自分の罪や欠点を理解し受け入れ成長していきます。彼女の成長とは、自身の罪を赦してもらうために、まずその罪を自覚しても耐えられる自分を形作っていく、静かな日常を指すものでもあるのです。
そして、こういうことがやたら細やかに、読みにくく描写されているのも実は同じ理由なのです。私たち読者だって、大鳥先輩が無意識下であっても他人を蔑ろにしてしまっていることに気づけばそれを糾弾せざるをえません。しかし、そこで糾弾をされてしまっては、先述した通り大鳥先輩は耐えきれません。ぼっち侵略は広瀬くん同様、私たちにも大鳥先輩のことをそっと見守ってあげて欲しいのでしょう。だからこそ、ああして仄かにそれを示すような描き方をしているのです。
唐突ですが、宇宙という言葉からは、どんなものが想像できるでしょうか。満点の星空、果てしない空間と時間、あるいは宇宙人。宇宙という空間は、私たちにほとんど無限の想像力をもたらしてくれます。ぼっち侵略のヒロインである大鳥先輩は、地球侵略をするためにオルベリオ星からやってきた女の子です。宇宙からの来訪者である彼女は、地球にいる私たちの想像力の具現化と言ってもよい存在なのです。
一方で、宇宙にはもう一つの側面が存在します人類は宇宙空間では生きることができません。現在の科学力を結集しても、私たちは一握りの人間を太陽系よりも外に送り出すことすら叶いません。無限の空間と時間は、私たちに可能性と同等の孤独と虚無を見せつけてきます。宇宙は想像力の源であると同時に、孤独と死を象徴する果ての無い世界でもあるのです。
私たちがフィクションに可能性を求めるとき、その受け皿になる登場人物たち。彼ら彼女らは登場人物であるが故に主体的に行動しますし、そうであるが故に罪を背負ってしまいます。それは、私たちがフィクションを楽しむためには必須とも呼べる要素です。それでもそれを赦してあげられないのか、少しずつ探っていこうとするのが、ぼっち侵略という作品なのです。皆さんも、大鳥先輩が広瀬くんと共に少しずつ成長し、そして自分の罪と向き合い乗り越えていく姿を、暖かく見守って頂ければ幸いです。

・ぼっち侵略関連情報、サイト紹介

さて、最後にぼっち侵略をもっとも色々形で味わいたい!という方のためのサイトを幾つかご紹介したいと思います。

まず、作者である小川麻衣子先生のブログでは現在、SNSアイコンへの転載を許可したひとりぼっちの地球侵略イラストが一部公開されています。

sankibadog.web.fc2.com


以前はゲッサンの公式HPで公開されていたイラストだったのですが、HPリニューアルによる該当ページの削除に伴い、SNSアイコン等への使用を小川先生が許可されたものです。利用規約もちゃんとありますので、今ここに書いている私の紹介も鵜呑みにせず利用規約をよく読んでからお使いください。ブログトップページ横のpict→ひとりぼっちの地球侵略からダウンロードできます。

次に、小川麻衣子先生がインタビュー記事、動画などのリンクも紹介しておきます。

・3巻発売時のコミックナタリーでのインタビュー記事。

natalie.mu

・6巻発売時の東京マンガラボでのインタビュー記事

note.mu

・サンデー系列の漫画家ラジオ『酒マン』の第34~37回(小川麻衣子先生ゲスト)

sakebitari555.seesaa.net

・漫画愛バラエティ番組『ゲッチメ!』小川麻衣子先生ゲスト回(公開終了)

freshlive.tv

そして、更にぼっち侵略についていろんな感想を読んでみたいという方がもしもいらっしゃいましたら……私の拙いブログでよろしければ各巻の感想・解説を書いておりますので、ご覧頂ければ幸いです。枯れ木も山の賑わいと申しますから、ほん少しの役には立つかもしれません。

thursdayman.hatenablog.com

以上で、ぼっち侵略の紹介は終了となります。完結まで残り一ヶ月を切っていますが、この記事を読んで今からでも読んでみたい!と興味を持っていただけたら幸いです。ではでは。

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