ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

ひとりぼっちの地球侵略14巻についてざっくりまとめてみた

こんにちは、さいむです。今回は2018年4月12日に発売された『ひとりぼっちの地球侵略』14巻の内容をざっくりまとめてみたいと思います。

13巻のざっくりまとめはこちらから。

thursdayman.hatenablog.com

さて、2012年から約6年間連載が続いてきたぼっち侵略もいよいよラストスパートと言っていいところまで来ました。私自身は実のところ去年のうちに終わるのでは? と考えていたので、寂しいというよりは結構長く続いたなぁ……という思いが強いです。それでも14巻の内容を読む限り、やはり物語のペースをかなり早めていることは実感できました。

そんなぼっち侵略14巻ですが、今回は恐らく"時間"が重要となる内容になっています。開示された設定が多いので整理するのが大変ですが、様々な出来事のタイミングや各々のキャラクター達が積み重ねてきた時間に注目することで、分かることが増えていくはずです。早速読んでいきましょう。

 

大鳥先輩の記憶の上書き

まずは第67話『願い/記憶の皿』から見ていきましょう。こちらは13巻巻末の予告や14巻の帯にもあった通り、大鳥先輩の記憶がマナのそれに上書きされていく話になっています。マナに関しては第68話で簡単な説明があるのでそちらを先取りすると、今現在のオルベリオ王であるストラスモア・マハヤ・クラシコ・オルベリオがかつて亡くした妻です。マハヤ王(以後マナの呼称に倣ってマハ)が大鳥先輩を連れ去った目的の一つはマナを蘇らせることだったです。オルベリオ語の魔法の力とは、言葉によって世界に生まれた可能性を現実のものにすることと11巻で大鳥先輩が解説しているので、完璧なオルベリオ語で綴られたマナの日記帳を大鳥先輩の記憶に上書きすれば、マナの記憶を受け継いだ人間≒マナの記憶を取り戻した人間となる可能性が生まれるということなのでしょう。……恐らく。

さて、ここでの演出は7巻のそれと対比できるものになっています。あのときは大鳥先輩は自分の存在を世界から忘れ去られることで消失させようとしましたが、14巻では大鳥先輩自身が記憶を失う(世界を忘れる)ことで消失しているのです。これは、以前13巻のざっくりまとめで言及した、一年目のぼっち侵略の内容を立場や構図が反転した状態で繰り返しているそれの続きでしょう。

マハヤ王に関しては後述するとして、ここでは142Pで「春うららかに、2年目の風が吹く…」というモノローグが入っていることが重要です。確かに2年目という言葉は使われていますが、この2年目とはどういう意味なのでしょうか。それは12巻の後半における演出を、1巻のそれと比較することで明らかになります。

ぼっち侵略1巻では、ゴズ星系の宇宙人を大鳥先輩が倒すことになり、その過程で広瀬くんが大鳥先輩に提案された約束を承諾します。それに対し、第59話ではキルシスの宇宙人を広瀬くんが倒し、更に第60話では広瀬くんの方から「俺と一緒に地球を征服しようぜ!」と1巻の約束を再確認する形で大鳥先輩に呼びかけます。

つまり、最初に出てきた宇宙人を倒す役割と、地球征服の提案の立場が1巻と12巻では逆転しているのです。実は、2年目と称された第59話からの展開は、1巻からの大鳥先輩達のやり取りを、立場や構図が反転した状態で繰り返しているのです。

13巻では、今回のボスとなるマハヤ王がゾキとは別の方向性を持った敵であることがその理由であると書きましたが、14巻でもその理由はある程度補強されています。これに関しては後程解説します。

ただ、この1年目とは構図が逆転した演出自体は、これ以降中々探しにくくなってきているんですよね。広瀬くんが地球の王になる展開を8巻のそれに当てはめられるかな? とも一瞬考えましたが若干無理筋な気がしています。まぁ対比できるように描かれていることは確かですし、15巻以降でまたこの流れが続く可能性もありますので、13巻からのこの演出の流れについては少し様子を見ようと思います。

ここはこうなんじゃない?みたいな意見等ありましたらコメント頂けると幸いです。

話を戻して、37Pは広瀬くんが大鳥先輩と呼びかけたのに対して、マナ(?)が濁った目で涙を浮かべ「ちがうよ」と返しています。37Pの時点で彼女が大鳥先輩なのかマナなのかは若干意見が分かれるところですね。第68話になったときには完全にマナになったようですが、37Pの段階だと完全に記憶が無くなってマナになる直前の大鳥先輩とも考えられますし、入れ替わったマナがマハが行った非道を知り、泣いて絶望しながら広瀬くんに助けられたようにも見えます。まぁ、ここは好みの解釈で問題ないでしょう。

1万年のズレが生んだマナとマハの齟齬

第68話『導きの星』では、マナに関する掘り下げと、広瀬くんとマハヤ王の初戦闘(?)が繰り広げられます。ここで最も重要なのはマナとマハの間に横たわるズレなので、そこに焦点を絞っていきましょう。

マハの手によって目覚めたマナですが、広瀬くんに見つかった後は特に逆らうこともなく彼の行動に協力します。そしてマハが現れると彼を拒絶し、広瀬くんと共に宇宙船で月へ向かおうとします。

マナがマハを拒絶した理由は明確で、彼女は自分が大鳥先輩たち144人の命を使い捨てるようにして、自分のものでない体で蘇らせたことにショックを受けているのです。対するマハは、そんなことで悩んでいたのかとマナの苦悩を一蹴、マナになれなかった者たちには価値はないと言い切ります。「私のマハはもう死んでしまったのだわ。」とマナは泣きながら叫びますが、これは正鵠を射た発言だと考えられます。マハ自身は自分は変わっていないと言いますが、一度死んでしまったマナという存在を手段を選ばず蘇らせた行為は非道そのものですし、何よりここでマナの意思に寄り添えないというのが彼とマナの乖離を決定づけてしまっています。まぁ、ここでもしマハとマナが完全に和解するようなことになれば広瀬くんにはどうすることもできないので、ここでマナとマハが理解し合えないのは物語の流れで言えば自然な展開でもあるでしょう。

こうしたマナとマハのやり取りですが、実はこれ広瀬くんと大鳥先輩の一巻での再会を意識した構図となっています。一度死んでしまったことで別れた二人が月日を経て再会する、という点では共通していますね。決定的に違うところは、マハはマナとの日々を"もう一度"始めようとしている点です。今までのざっくりまとめでも解説してきましたが、大鳥先輩と広瀬くんは10年前の過去とは別に初めて出会うようにしてお互いの関係を構築し、その中で大鳥先輩は地球侵略とは異なる、自分の望む未来を夢見るようになっていきました。二人の関係はあくまで0から未来に向かうようにして築き上げてきたものなのです。対してマハは、マナの日記帳を使うことで1万年前のマナを完全に蘇らせ、自分もあのときから"変わっていない"と主張することで、1万年前の日々をもう一度過ごそうとしています。それは過去に遡ろうとする行為であり、つまりは現在を蔑ろにする行為でもあります。蘇ったマナはあくまで死んだ直後から連続した今を生きていますが、マハは1万年前の過去から止まったままなのです。その意味で、"現在"のマハはまさしく死んだ存在であると言えるでしょう。現在を生きていないのだから、現在を生きている者たちへ理解を示すことが一切なく、蘇ったマナに対しても1万年前のそれを求めるが故に噛み合うことがないのです。

第68話のラスト、大鳥先輩によって大気圏に投げ飛ばされたマーヤのナイフが、マハの台詞に呼応するように宇宙船を貫いてマハに襲い掛かります。現在を生きようとするも最後まで過去にとらわれたが故に生き続けることができなかったマーヤが、最初から過去しか見ていないが故に現在(マーヤたち143人)を切り捨てたマハに復讐する機会を得たシーンです。マハに関する掘り下げはマーヤが生きていた当時はなされなかったため、マーヤのマハに対する恨みはあまり掘り下げられませんでしたが、ここでその思いは補完されたことになるのでしょう。少なくとも、今を生きていくことで143人の命を忘れずに償っていくと決めた大鳥先輩の未来を繋ぐ手伝いをしたことで、マーヤ自身が生きようとした、来ることのなかった日々に少しでも報いるができたのかもしれません。

岬一VS影岬一 ~成長するということ~

続いて第69話『試練』を読んでいきましょう。この話の中で注目すべきは影岬一と岬一の対決でしょう。広瀬くんたちがマハの宇宙船から脱出して月へ向かうと、突如広瀬くんの影から彼のそっくりの偽物(以後影岬一)が現れます。力をセーブしない影岬一に圧倒される広瀬くんですが、影岬一が自分の偽物ではなく自分の姿そのものであることに気づいて以降は力の使い方を真似ることで影岬一に追いつき、最後は影岬一の全力の一撃を誘っての後の先(広瀬くん談)で影岬一を倒します。

突然の自分との対決で割と驚く展開ですが、ここに関しては見るべきポイントはほぼ一点、100Pでマナが言っている「影は影よ、力をセーブせず全力を発揮できるかもしれないけど、『成長』もしないわ。最後は岬一くん次第…」という台詞ですね。ここで「成長」という言葉を使っているのにはちゃんと意味があります。13巻のざっくりまとめで、広瀬くんとマハの対決は完成されたマハと成長してきた広瀬くんの対比でもある、という話をしました。

これらを踏まえた上で、122Pで大鳥先輩が広瀬くんの背が伸びたことに気づくシーンは、広瀬くんからのアプローチとはやや言いにくいものの、マハヤ王が大鳥先輩に理解させた”男らしさ”に対する広瀬くんなり(大鳥先輩なり)の回答と言うことができます。マハヤ王より背が低く筋肉もない広瀬くんですが、それでも1年の歳月を経て、大鳥先輩よりも背が高くなっていたのです。マハヤ王の”男らしさ”は完成されたものですが、逆に言えばそれ以上変化することも成長することもありません。一方で、広瀬くんのそれは大鳥先輩と共に一年を過ごす中で獲得されたものであり、しかも大鳥先輩の背丈と見比べることでしか確認することができません。これは大鳥先輩にだけ分かる大鳥先輩にとっての広瀬くんの”男らしさ”であり、先んじて完成されている”男らしさ”を見せたマハヤ王に対するアンサーとして成立しているのです。

今回の影岬一もマハと同じで、もしも広瀬くんが成長することもなく、最初から現在の広瀬くんなりに完成した状態だったら、というイフの姿として広瀬くんと対決していると考えられます。だからこそ、完成したままでそれ以上先に進むことのない影岬一の力の使い方に広瀬くんが後から気づき、影岬一に先に一撃を打たせた後で広瀬くんが倒す「後の先」で倒すという描写がなされているのです。どれだけ差があろうと止まることなく前に進み続ければいつかは目指すものに追いつく、という描き方であると言えます。1巻133Pで凪が広瀬くんに言っていた「初めから結果なんて期待すんなよ、のんびりやろうぜ」という方針が、広瀬くんが成長する中でここまで繋がってきたのです。仮に広瀬くんがこのまま成長しきってしまったとしてもマハの方が広瀬くんより性能が上である可能性は高いので、その前段階として自分がもし完成したまま止まっていたら、というイフと先に戦わせる話が入ったのでしょう。

余談ですが、これはあれですね、小川先生が前々から言及していた藤子・F・不二雄先生のSF短編『ひとりぼっちの宇宙戦争』のオマージュが入っていますね。もう一人の自分との対決から決着の様子までが似ています。ぼっち侵略は今までにも小川先生が影響を受けた(と思われる)作品の色々と入っていましたが、タイトルの元ネタとして公言していた『ひとりぼっちの宇宙戦争』のオマージュがはっきり入るのは多分これが初めてなのかなと思います。まぁ短編ですからそんなに幾つもオマージュとして入れるものがあるわけではないのですが、ちょっと驚きました。

ややこしい話を整理しようか……

今回一番頭を悩ませた第70話『地球と主』の前半部分を読んでいきます。第70話の前半は設定整理、と呼んでも差し支えないでしょう。色々話していますが基本的にはオルベリオ王(皇帝)の話と港の話に情報が集中しているので、その二つに話題を絞っていきましょう。

まずはオルベリオ王(皇帝)の話から。

先生! 4億年前地球に一人でやって来て港を作ったのは144代オルベリオ王って7巻に書いてあったのになんでトトは初代皇帝って呼ばれてるんですか!?

という疑問にゲッサン連載当時三日三晩頭を悩ませた私ですが、とりあえず解説していきましょう。

結論から言うと、7巻の144代オルベリオ王とオルベリオ帝国初代皇帝ことトトは同一人物でおそらく間違いありません。一見初代と144代で世代がかけ離れているようにも見えますが、皇帝とは帝国の君主を指す言葉であって厳密には王ではありません。これはつまり、地球からオルベリオに帰って144代オルベリオ王になったトトが他の星々を征服することでオルベリオ帝国を築き、元のオルベリオ王とはまた別に初代皇帝の地位に就いたことを意味しています。なので、144代オルベリオ王であり初代オルベリオ皇帝でもあることは別におかしくもなんともないのです。

……だからリコくん、お願いだから初代オルベリオ"王"って言い方しないでくれ。そこを間違えられると本当に私はもう駄目だ。

まぁそこに設定の修正がこっそり入ってても別段問題はないのですが……。

で、次に港の魔法の話ですが、港を開く手順が今までよりももう少し明らかになりましたね。ほしのきおくはトトのいる月の遺跡まで届けられていたようです。4巻で大鳥先輩が港を開く際に言っていた王様が具体的にどういう王様を指すのか今まで不明でしたが(144代オルベリオ王の生死も以前は不明だったので)、10年前に打ち上げられたほしのきおくの行き先から考えてもまずトトで間違いないでしょう。ただ、港の魔法自体が現在の記憶だけになっているトトと結びついていると考えると辻褄が合わなくなるので、ほしのきおくはトトの元に送られるのとはまた別に何か意味があるか、あるいは月それ自体に港との関係があるのかもしれません。トトと地球にとって月が大事なものであるという発言があることからも、後者の可能性の方がやや高いでしょう。ただ後者の場合、14巻の後半で月の遺跡の破壊と同時にトトに何かしらの因子が侵入したことを考えると、港の魔法とは別に2巻でリコが言っていたパスワードの解析、ないし港の魔法自体の解除がそれで完了してしまった可能性もあります。まぁここら辺は15巻でもう少し明らかになることでしょうから、これぐらいにしておきましょう。

「結婚」の意味 ~一緒にいて欲しいという思い~

第70話後半では、広瀬くんが地球と「結婚」する様子が描かれます。まぁ13巻の頃からそんな気はしていましたが狭義の結婚ではないようなので、ここはしっかり読んでいきましょう。

とは言え、その思想の根本はぼっち侵略のそれこそ1巻から繰り返し語られてきたことです。相手を赦すということは、相手と一緒にいるということ。これはひとりぼっちの地球侵略における、あるいは広瀬くんと大鳥先輩の基礎です。地球――暁行というキャラクターの場合ですのですべて同じではありませんが、基本は同じです。

地球とトトがどのように出会ったのか(というかどのようにして意思の疎通を交わしたか)は明らかになっていませんが、何にせよかつて地球とトトは再会を誓いつつもそれを果たせず、後にはトトの記憶を継ぐ機械だけが月に残されました。その過程においてトトが地球の王となったのであれば、おそらく地球の王になるということは地球という星に共にいると言うことなのでしょう。まぁ文字だけを読むと何を当然のことをという感じですが、トトの場合は王になった後、それを果たすことができなかったわけです。大鳥先輩は他人というモノを手に入れたことがなかったからこそ、意味も価値も知らない仲間を求めましたが、地球もその点は同じなのかもしれません。地球人ではなくオルベリオ人が先にあった以上、地球にとってトトとの逢瀬はおそらく1巻における大鳥先輩と広瀬くんの出会いと同等のものであるはずなのです。つまり、地球とトトは大鳥先輩たちのような出会いを果たしながら、最終的に別れてしまった者たちと考えることができます。

この辺りを踏まえると、地球にとって他の誰かを地球の王と認めることは、その者と今度こそずっと一緒にいたいという願いに繋がるものであり、広い意味で結婚するということと同義なのでしょう。マハとマナのそれと似ているかもしれませんが、地球の場合広瀬くんという新たな王を迎えているという点で決定的に違っています。トトは記憶だけの存在であり、マナ同様既に喪われたも同然ですから、新たな地球の王を迎えるという行為は地球なりに未来へと進んでいるのです。まぁ記憶だけになったとは言えトトと連絡は取れていたのですからマハほどの絶望に陥っていないのでは? という意見もあるかもしれませんが、それはそれ。時間的には地球の方が断然長いのですからそれでおあいこです。

……とまぁ、広瀬くんと地球は結婚したわけですが。要するに広瀬くんが地球にいればいいだけですよね 13巻で言うとおり広瀬くんは宇宙空間で生きていけませんし、暁行はあくまで依代なわけですから、別に……どうとでもなるでしょう。はい。大丈夫だと思います! 以上!

あ、また余談ですが地球が胸に薔薇つけて城で結婚ということはやっぱりこれウテナ……エンゲージ……いつか一緒に輝いて……。

広瀬くんVSマハ ~進む者と止まった者~

次は第71話『生命の選択』ですが、こちらは実のところ特に注意して読むポイントのない回なので、さっと読み通して第72話へいきましょう。

その第71話ですが、広瀬くんの胸に地球らしきものがスポッと入るシーンから始まっています。直前に凪の面影を広瀬くんが見ているのが印象的ですね。その後、マハが月の遺跡に攻め込む直前、広瀬くんとマナが最後の会話を交わします。53Pの「若いっていいわね~」にかけたマナの一万歳ギャグもありましたが、話題の中心は大鳥先輩の告白に対する広瀬くんの返事についてでしょう。145Pの「私とマハみたいに手遅れにならないで…」は、主に13巻での大鳥先輩と広瀬くんのすれ違いに関して、それがマハとマナ程にずれてしまわないようにと注意しているのでしょう。

他にも幾つか今後の前振りとおぼしきシーンがありましたが、それらはまた該当するシーンが出てきたときに遡って解説するので、今回はこのまま第72話『愛』を読み進めます。

月の遺跡が攻撃を受ける中、地球(の意思)は消えゆくトトの指示に従い、リコと共に地球に帰ろうとします。一方、月の遺跡に忍び込んだマハはマナを後ろから抱きしめ、もう一度一万年前のように共に生きようと語りかけます。

マナとトトは二人とも過去に一度死んでしまった存在であり、地球とマハもそれぞれ残された側の者たちとして悠久の時を生きてきた存在です。その上で、マハはマナの言うことを聞き入れず過去の日々をもう一度始めることに固執し、一方で地球はトトの願いを受け入れ、月から脱出しようとします。残された者が、先に逝ってしまった者の願いを受け入れて先に進むのか、それとも過去に縛られてしまうのか、ここで綺麗に対比できる構図になっているわけです。リコが169Pでこれでいいの? と地球に問いかけているのは、ここで二人の思想の違いを描くためでもあるのでしょう。

その後、隠れていたマハとマナを広瀬くんが発見します。地球の王になった広瀬くんは、地球をくれてやるから大鳥先輩を返してくれ、とマハに迫ります。

地球の王になった途端に地球を手放そうとしている広瀬くんですが、実はここは13巻での大鳥先輩の告白シーンとの対比だったりします。というのも、13巻での大鳥先輩は告白に際し、「広瀬くんがいればそれでいいの、それ以外に欲しいものなんてなんにもない!」と、遠回しながら地球侵略を蔑ろにしてでも広瀬くんと一緒にいたいという想いを伝えているのです。

これは先述した初登場のシーンもそうですが、99Pで大鳥先輩がマハヤ王に託された使命を思い出すシーンも該当します。暁行やマハヤ王によって関係が乱される中で、広瀬くんと大鳥先輩がお互いに拠り所としていたものの一つが、12巻で確認し合った約束です。しかし、約束というのであればそもそもマハヤ王に託された使命の方が先に存在しています。普通は先にした約束を果たす方が大事ですから、約束というものを根拠に広瀬くんと共にいたいと思うのであれば、大鳥先輩はまずマハヤ王との約束を果たさなければ筋が通っていません。使命の存在が、二人の約束を赦さないのです。だからこそ、この直後大鳥先輩は約束(二人で一緒に地球を征服する≒そのために広瀬くんと暁行が結婚する)を蔑ろにしてでも広瀬くんと一緒にいたいだけなのだと告白することになるのです。

13巻のざっくりまとめ当時は、この大鳥先輩の言動について、地球やマハによって大鳥先輩が元の約束を守るのか広瀬くんと共にいることを優先するのか、という二択に追い込まれている、という主旨の解説をしました。ただ、ここはもっと前向きな捉え方をすれば、1巻から続いてきた地球侵略や仲間といった御題目を取っ払って、大鳥先輩がゆっくりと育んできた広瀬くんへの想いをそのままに伝えられたシーンでもあります。第71話でもマナに言われたとおり、広瀬くんが大鳥先輩の告白にきちんと応えようというのであれば、この地球を手放してでも大鳥先輩を返して欲しい、という願いは大鳥先輩の告白としっかり釣り合う想いとして成立していると言えるでしょう。

さて、対するマハは広瀬くんの提案を真っ向から拒絶し、そのまま二人は戦いに突入します。この戦闘シーンでも二人の思想の違いがはっきり出ているので、細かく追ってみましょう。

 影岬一との戦いで力の使い方を覚えたり、地球の王になった広瀬くんですが、どうしてもマハ相手には劣勢に立たされてします。そんな広瀬くんに対してマハは…………マハはー……生物の授業を始めます

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ヒトの「眼」は水晶体、網膜と視神経の接続が非常に非効率なんだ! 将来的に焦点の補助に器械補助を使う可能性があるんだって! 気をつけようね!

「喉」も食べたものが詰まって窒息する危険があるんだって! 危ないね!

炎症を起こすばかりで使われもしない臓器があるんだって! 信じられなーい!

そして、オルベリオ人にはこんな欠陥はないんだ! オルベリオ人は凄いぞ!

 

だそうです。なるほど……?

とまぁ冗談はここまでにして、この生物の授業、ちゃんと意味があります。重要なのは、この地球人の欠陥が、オルベリオ人を目指して地球の生命が進化してきた過程である、ということです。完成されたオルベリオ人と、それを目指して進化してきた地球人。そうです、これもマハと広瀬くんの対比構造を補強する話題になっているのです。「俺たちは最初からこの姿って決まってた訳じゃないぜ。少しずつ進化してきたんだよ。」という広瀬くんの台詞は、影岬一との戦いを経て、改めて自分が大鳥先輩と共に過ごしてきた中で、自分が成長してきたことを再確認するものでもあったのでしょう。

その後のマハと広瀬くんのやり取りも、やはり今までのマハと広瀬くんの対比構造をなぞっています。マハは自分にも広瀬くんと同等の再生能力があることから勝ち目はないと広瀬くんに言いますが、対する広瀬くんはマハの髪の毛を知らぬ間に切り落として、「勝てる勝てないの問題じゃないんだよな。分かってねぇなぁ…」と不敵に笑って見せます。先の進化してきた、という旨の台詞もそうですが、ここでの広瀬くんの言動は結果というものを実はあまり重要視していない、というのがとても大事だったりします。これも先ほど70話の解説時に紹介した、1巻第3話での凪との電話の延長線上にある考え方なのです。

マハと広瀬くんという構図で繰り返し説明しますが、マハが目指すものは過去で既に完成され、今は喪われてしまったものの復活です。それは過去に向かう行為であり、そこに成長はありません。昔の自分に戻るだけであり、時が進んでいったとしてもそこに未来はないのです。対する広瀬くんは、結果に期待することなく今まで前に進み続けてきました。分かりきっている何か、過去の何かを尺度とするのではなく、あくまで目指す場所に向かって進み続ける。それとの距離がどれほど離れていようと、関係はありません。1巻で広瀬くんは、大鳥先輩が置かれている境遇の壮大さ、果てしなさ、そしてその孤独に圧倒されながらも、彼女に歩み寄る努力を止めはしませんでした。地球侵略は上手くいくのか、大鳥先輩のことを理解できるのか、そうした結果だけを求めるのではなく、自分の目指すもの、守るもののために未熟で不器用ながらも頑張ってきたのが広瀬くんだったのです。これこそが本作で言う進化するということ、成長するということであり、未来へ進むということでもあるのです。

マハと広瀬くんの戦いに話を戻すと、だからこそ、ここで広瀬くんは勝ち負けを重要視していない、ということになります。彼の目的はあくまで大鳥先輩を取り戻すことであり、そのために、自分より圧倒的に強いマハと戦い続けているのです。その行為を止めないことこそが大事なのであり、マハのように既に完成されたもの、分かっている結果を求めてはいません。マハと広瀬くんの間に認識のズレが発生しているのはそういうわけなのです。二人の考え方、見ている先がはっきり違うということが分かるシーンと言えるでしょう。

まとめ

最後に、第72話のラストシーンを読んだ後に全体のまとめをして14巻のざっくりまとめを終えたいと思います。

14巻は、マナが広瀬くんの苦戦に耐えかね、マハの元に向かったところで終わっています。第72話の出だしを再確認すると、マナが諦めてマハと一緒にいることを選んだように見えます。ただ、諸々読み直した限りではこのまま二人が一緒になるとは思えないのも事実です。マハがマナと過ごした1万年前の日々を取り戻すには、オルベリオと気候のよく似たアルシャ(地球)を征服することが必須ですし、その際に行われる非道をマナが容認できるとは思えません。何より、マナは「私、やっぱりマハを見捨てておけない…」と言っています。「見捨てておけない」という言葉は、一緒にかつての生活に戻ろうとする際の台詞にしては違和感があります。少なくとも、マナとマハの関係がこのまますんなりまとまることは恐らくないでしょう。

以上でぼっち侵略14巻のざっくりまとめは終了になります。全体を振り返ってみると、最初に書いたとおり、やはり"時間"が重要になった話だったと思います。各キャラクターが生きてきた時間や、彼ら一人ひとりの時間に対する認識の差異が、物語の軸としてしっかり機能していました。クライマックスに向けた設定の開示や、今までの物語を踏襲した演出等も豊富で、中々に読み応えがありました。

今後のぼっち侵略ですが、この調子で進めば恐らく15~16巻で終わるのではないかとなんとなく思っています。月が重要な要素であることは確かですが、一方で最終的には地球に戻らないと行けない以上、月から地球への移動、地球での決着、エピローグまで描くとすると16巻までかかりそうな気はします。まぁその辺りを省いてさっくり15巻で終わるかもしれませんが。仮に16巻まで続いた場合、ギリギリ今年中に終わらないことになりますが、果たしてどうなるか……。最後までしっかり見届けたいところです。

それでは、またぼっち侵略15巻のざっくりまとめでお会いしましょう。