ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

ひとりぼっちの地球侵略10巻の内容をざっくりまとめてみた。

こんにちは、さいむです。今回はぼっち侵略10巻について、内容をざっくりまとめながら色々考えていきたいと思います。

10巻は帯にて『交錯する、「兄弟の因縁」、「姉妹」の因縁』と書かれているように、広瀬くんと凪の対決、大鳥先輩とマーヤの対決がそれぞれ比較されるように描かれています。一方で、それぞれの戦闘においても各々の心情や成長をしっかり掘り下げる描写や演出が多数あり、戦闘の多さも相まって大変見応えのある巻です。ここでは話題を広瀬くんと大鳥先輩の変化や成長に絞りつつ、その他のポイントにもざっくり触れることで作品全体を眺めていきましょう。

 なお、既刊の内容などにも幾つか触れていますが、そちらに関しては発売前に投稿したこちらの記事を先に読まれるとより分かりやすくなりますので、良ければどうぞ。

thursdayman.hatenablog.com

1.広瀬くんへと本格的に移っていく心臓の主導権。

まずは10巻において最も言及が多かった広瀬くんの心臓についてです。色々ありましたが、これはざっくり言ってしまえば9巻において大鳥先輩が広瀬くんの変化を認めたことに由来しています。8巻から軽く振り返ってみましょう。

8巻で大鳥先輩は、広瀬くんが自分にとって特別である唯一の理由になっていた心臓の絆をマーヤに夢の中で否定されます。そこから10年前の絆としてではなく、広瀬くんが大鳥先輩のために努力してきた証として心臓を捉え直したのが9巻でした。

それらを踏まえた10巻では、第46話「夜の中へ」にて大鳥先輩が次の戦いに向けて広瀬くんを特訓させています。心臓が広瀬くんの成長と努力の証と捉え直したのなら、今度は大鳥先輩もそれに応えなければなりません。広瀬くんが大鳥先輩と一緒に歩んでいくつもりならば、大鳥先輩は自分について来れるよう広瀬くんを鍛える必要があったわけです。

その後、第49話「静寂の呼び声」ではゾキから広瀬くんの心臓について新たな真実が語られます。これについては解説がちょっとややこしいので、詳しいことは別の記事で書かせて頂きます。重要なのは、あの真実を通して心臓の主導権が設定的にも広瀬くんに移ってきたことです。

9巻まで、心臓は元々大鳥先輩のものであると語られつつ、それを広瀬くんが成長していく中で”大鳥先輩から譲り受けた自分のものである”と主張してきました。しかし裏を返せばそれはあくまで広瀬くんの成長を裏付ける、心情的な側面のみにおいてのものでした。心臓の力を少しずつ使いこなせるようにはなっていたものの、根本的には常に”オルベリオの心臓”として扱われてきたのです。

10巻ではそれがひっくり返されます。広瀬くんの心臓は文字通り広瀬くんだけの特別な心臓であり、彼自身がこの状況の中心的人物ということになったのです。正確には1巻の頃から広瀬くんは設定的にも重要な存在だったのですが、それはオルベリオ(大鳥先輩)の心臓を持つからという理由であり、彼という人間自身はそこまで重要ではありませんでした。が、今は違います。支配の力を持つオルベリオの心臓を体内で進化させてきた広瀬くんは、その力を完全に使いこなせさえすれば全宇宙の支配すら可能にしてしまいかねないのです。そんな心臓を(正確にはその力を)ゾキも狙っています。今の広瀬くんには、大鳥先輩についていくためではなく、自分の問題を解決するために心臓の力と向き合うことが求められているのかもしれません。広瀬くんと心臓の関係がどうなっていくか、これからも注目していく必要がありそうです。

2.2巻の再演を通して描かれた大鳥先輩の理解と言葉。

広瀬くんの次は勿論大鳥先輩ですね。大鳥先輩は7巻から「相手の気持ちを想像して行動できるか」が重要な課題として描かれてきました。10巻ではその課題に大きな進展が見られました。具体的にはマーヤとの戦闘シーンがそれに該当します。10巻の見せ場でもあるので少し読みこんでみましょう。

まず、大鳥先輩はアイラちゃんが入院している病院でマーヤとの戦闘に突入します。ここから遊園地に行くまでは、今まで作品内で出てきた場所をあちこち回っていますね。20Pで全体像がハッキリ見える病院は4巻の過去編、10年前に凪が入院していたそれでしょうし、94P前後の一度街の人々を巻き込みかけた場所は5巻の最後で戦闘していた橋の近くでしょう。最後に辿り着いた遊園地は、勿論2巻ですね。

それはさておき、マーヤは独自の魔法とナイフで大鳥先輩を追い詰めていきます。ここでマーヤがメリーゴーランドを破壊しているのが大きなポイントです(115P)。ぼっち侵略2巻が発売された際、帯に書かれた文章の中に「遊園地の破壊」という言葉がありました。2巻の中でもあの観覧車の破壊は象徴的なシーンでもあります。そして、観覧車もメリーゴーランドも回るアトラクション。この戦闘シーンは2巻の大鳥先輩とマーヤとが重なるように描かれているのです。大鳥先輩の「…あ、この辺……近くだ…」という台詞がそれを示しています(114P)。

 大鳥先輩に対する怒りと憎しみを原動力にして襲いかかるマーヤ。マーヤと戦いたくない大鳥先輩は彼女にかける言葉を探しますが中々見つかりません。とうとう追い詰められ、もうだめかというときに「広瀬くん…」と漏らした一言がマーヤに刺さります。

2巻はリコとの戦いを通して大鳥先輩が仲間という曖昧な概念から、広瀬くんという一人の人間に意識を初めて移す話でもあります。マーヤはこの瞬間、失われてしまったかつての仲間たちではなく凪というただ一人を失った悲しみを思い出します。ここも2巻の大鳥先輩と重なっているのです。そして、2巻と重なっているマーヤの姿が、大鳥先輩に彼女の気持ちを想像させるきっかけをもたらします。

マーヤの目に浮かんだ涙を見た大鳥先輩がようやく見つけた言葉、それは以前リコにかけられた言葉と同じ「なにがそんなに悲しいの…?」でした。理由は分からなくても、同じ悲しみを感じたことがあるから理解し、放つことができた言葉は、やっとマーヤへと届きます。9巻で広瀬くんの気持ちを受け止め変化を認めることができた段階から更にもう一歩前進し、相手の心情を想像し言葉をかけられるようになったのです。「誰かを大切に思う気持ちってよく分からない」と言っていた1巻の頃と比べると本当に成長していますね。広瀬くんが変わってきているように、大鳥先輩も着実に変わってきているのです。

3.凪とゾキ、そして各々のこれから。

最後に、凪とゾキの現状を軽くまとめつつ、それぞれのキャラクターの今後について少し考えてみたいと思います。

まずゾキと凪ですが、9巻のざっくりまとめでも書いたように二人の関係がまだよく分かりまん。凪は乗っ取られているだけかもしれませんし、あるいは彼自身が何かを企んでいるかもしれません。この辺りは今後のお楽しみとしていた方がよいでしょう。

マーヤは今回の戦いを通して凪が自分にとって大切な存在であることを再認識しつつも、一旦凪(ゾキ)と共に帰って行ったので現状どうなっているか不明です。11巻でその辺りの心情も描かれるでしょう。相変わらずこの凪とマーヤは最後まで楽しみを残してくれていますね。割とドキドキしてしまいます。

アイラちゃんは、龍介との仲が最終的にどうなるか……は置いておくとして、4巻22Pでおばあさまが言っていた「真の力」が今から発揮されたりするのかどうかが気になるポイントではあります。あと、いつも首に下げていたクロスペンダントと狼の正体も分かったので今後更に活躍する機会があるかもしれません。頑張れサバーチカ!リコとの絡みがもっかい見たいぞ!

あと本当に余談ですが、表紙のアイラちゃんは本当にいいですね……思わず表紙だけで別の記事を書こうかと思ったほどでした。

リコに関しても少し掘り下げがありました。まず、ゴズの純制圧型戦闘兵との戦闘では、敵に回った凪に混乱する広瀬くんを立ち直らせるシーンがありました。これは6巻で死に怯えていたリコを叱るように励ました広瀬くんと、立ち位置をひっくり返した形になっています。森に隠れながらという構図も似ていますね。広瀬くんとの日々の中でリコも成長してきたことが窺えます。そしてハウス星がヤフマナフの属星という事実も判明。果たしてこちらの王に出番はあるのでしょうか。

ナイフの傷を負ってしまった大鳥先輩にも注目しておきましょう。ここは1巻の4話を想起させるシーンですね。あのときは広瀬くんに変わってほしくないという思いで怪我を負ったことを隠していましたが、今回は広瀬くんが変わっていく、成長していくために自分の怪我を隠してしまうという、反対の思いから同じ行動を選んでしまっています。しかも今度は治らない。小さな傷とはいえ首元と右の手の平ですし、これがどう繋がってくるか気になるところです。

 

以上で、10巻の内容をざっくりまとめてみました。言及していない部分も結構残っていますが、それに関しては後日別に記事を用意して、そちらで書いていきたいと思います。

それでは。

 

【追記】

ぼっち侵略10巻の詳細読解記事ができました。よければこちらもお読みください。

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