ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

ひとりぼっちの地球侵略7巻までをざっくり振り返ってみた。

こんにちは、さいむです。

今日は、ぼっち侵略7巻までの流れをざっくりまとめて、物語がどのように進んできたのかおさらいしてみましょう。ぼっち侵略は1巻ごとに区分けして読むことができる漫画なので、それぞれ1巻から7巻までに章分けして、それぞれの巻について解説していくことにします。では早速1巻から見てきましょう。

ここで一つ注意。今回は7巻までの内容を読んでいることを前提に話を進めていくので、ネタバレに気を付けてください。

なお、今回も(巻数:ページ:コマ数)という風に見ている箇所を示していくので、単行本を片手にお読みください。

 

1巻:ぼっち侵略の基本の3ポイント。

 

さて、1巻なのですが、1話と2話はこの漫画を理解するうえで最も重要です。ここを理解しないことには先の内容を適切に理解できません。なので……。

 

thursdayman.hatenablog.com

まずはこちらをお読みください!……いや、こればっかりは省略できないので……。

取り敢えず、ここで結果だけ改めて書くと、「広瀬くんの心臓が港の鍵となっている(あるいはそれに類する役割)」、「大鳥先輩は他人と交流したことが無く、広瀬くんこそが一番最初に出会えた自分と対等の人間である」ということです。まずはこの二つを抑えないといけません。そこを踏まえたうえで、3話と4話の話が可能になります。

3話と4話では、それぞれ広瀬くんにとっての日常と、大鳥先輩の日常が交互に描かれます。

3話では大鳥先輩が広瀬くんの日常に少しづつ入り込んでいく中で、広瀬くんが自らの方針を少しづつ固めていくお話。地球侵略という非日常が目の前にあるのに普通の日常を過ごさなければならないという矛盾を、結果は無理に考えずまずできることからやる、という答えで乗り越えていく。これによって、広瀬くんの日常が大鳥先輩を通して変化し始めます。

4話では、反対に広瀬くんが大鳥先輩の日常である地球侵略に関わることで、大鳥先輩の日常もまた変化していくことを予感させる話となります。今まで単なる暇つぶしだった学校生活が広瀬くんのおかげで少しづつ楽しくなってきて、そうであればこそ大鳥先輩は自分の日常である地球侵略という事情に広瀬くんを巻き込みたくない。しかしそこで広瀬くんは、もうひとりぼっちではないのだから自分を頼ってくれ、と訴えかけます。大鳥先輩にとって唯一の存在意義である地球侵略に広瀬くんが加担することで、大鳥先輩にも変化が現れていることが分かる一幕です。

ここまで見ていくと分かるように、2話のラストでそれぞれ「地球制服のために!」「宇宙人から家族を守るために…」と自らの目的のために仲間となった二人が、お互いがいる日常の中で成長し始めている様子が見てとれます。ここが先の1話と2話の感想でのまとめに続く、1巻での重要なポイントになります。先ほどの2点と合わせると、

一つ目。
・大鳥先輩が生まれたときから他人と触れ合うことのない生活を送っていた状態から脱出し、少しずつ他人や仲間という存在について広瀬くんを通して知り成長していく。

二つ目

・港や心臓、魔法といったキーワードの秘密を少しずつ解き明かしつつ、大鳥先輩の地球侵略の目的やオルベリオの実態など地球の外の世界の秘密を探っていく。
うん。これも全うに普通。

三つ目

・大鳥先輩と広瀬くんが地球侵略と家族を守るというそれぞれ違う目的の元に協力しながら、様々な事件を経るに連れてお互いを理解し合って関係を深めていく。

この三つがぼっち侵略一巻における重要なポイントになります。これらを抑えることによって、以後のぼっち侵略の物語をよりしっかりと把握することができるはずです。では、この調子で次の巻に行ってみましょう。

 

2巻:「誰かを大切に思う気持ち」

 

上の台詞は1巻2話における大鳥先輩のものですが、2巻ではこの台詞を覚えておくことが重要となります。2話の時点で大鳥先輩は広瀬くんの様子を見て誰かを大切に思う気持ちがどのようなものなのか「観測」したに過ぎません。4話では壊したくなかったとも話していますが、ここで大鳥先輩が壊したくなかったのは広瀬くんのいる楽しい日常であって広瀬くん自身とはまた少し違います。そんな大鳥先輩が誰かを大切に思う気持ちを初めて自覚することになるのが2巻となります。

 

まず前半で広瀬くんの弟、凪が出てきます。二人が似ているというだけで大鳥先輩は戸惑ってしまいます。ここでの大鳥先輩は二人の見分けがあまりついていないという風に考えることもできるでしょう。確かに広瀬くんは彼女にとって初めての仲間ですが、同時に単に自分の心臓を持つ地球人(心臓が溶け込んだという点ではオルベリオ人側)でもあるわけで、彼女にはまだそれ以上の思い入れがないのでしょう。

 

そんな広瀬くんがリコとの戦闘であっさり死亡し(たように見え)ます。ここで大鳥先輩は、誰かを失った悲しみを初めて感じ、同時に激しく怒ります。リコに「あの地球人とお前は関係ないだろう!?」と言われて更に激怒して、リコを戦闘不能に追い込みます。結局、ここでの大鳥先輩は広瀬くんのことを「自分の心臓を持つ初めての仲間」「いつもより楽しい学校生活を過ごさせてくれた"暇つぶし"」以上にはまだ考えられていなかったのでしょう。考えなかったのではなく、「誰かを大切に思う気持ち」が分からない以上、そう思う発想がなかったのです。だからこそリコの疑問に拳で返すしかなかったのでしょう。

 

その後、死んでしまった広瀬くんに大鳥先輩はキスをします。これは、誰かを大切に思えるようになったのに、その唯一の相手である広瀬くんが死んでしまっているからです。死んでしまった人に対して大鳥先輩が最後にできたのは惜別のキスだけだった、ということなのでしょう。……まぁ、広瀬くん生きてますが。

 

この後、大鳥先輩は凪と広瀬くんの見分けがつくようになります。勿論凪が大鳥先輩に対して態度を変えて接するようになったのもありますが、広瀬くん個人を大切に思えるようになったことでしっかり二人を見分けられるようになったとも考えられるでしょう。

また瀧さんに関係を問われた際、「キスはもうしたよね?」と広瀬くんに問いかけます。これは「誰かを大切に思う気持ち」を他人に証明できるものが、広瀬くんにキスをしたことしかないからそう言っているだけであって、別に広瀬くんをからかいたいわけではないのでしょう。

さて、以上のまとめから、大鳥先輩が「誰かを大切に思う気持ち」を自覚し、広瀬くんを個人として捉え始めたのが2巻であると考えることができるでしょう。1巻において仲間や他人というものを初めて得ることができ、それが一体どういうことなのかを理解した大鳥先輩は、2巻でその仲間を個人として大切にすることができるようになったのです。そして、現時点でその唯一の証明である「広瀬くんとのキス」がこの後の3巻の内容に繋がっていくことになります。

 

3巻:地球人と、オルベリオ人。

 

さて、3巻の内容についてですが……まず、3巻が発売された頃に掲載された小川先生のインタビュー記事をご覧ください。

 

natalie.mu

 

こちらの2ページ目の質問に注目したいのですが、小川先生が「大鳥先輩にとって地球人とオルベリオ人は対等な存在ではない」といった主旨のことを話されています。3巻はここを踏まえて読むとより分かりやすく読んでいくことができます。

まず、アイラちゃんが登場した後に青箱文化祭の準備が始まります。今までだったら適当に傾いて過ごせた筈の大鳥先輩でしたが、放課後の広瀬くんとの読書タイムの時間まで無くなってしまったためにストレスを感じてしまいます。1巻4話では広瀬くんが地球侵略の方に関わることで楽しいひとときが台無しになることを恐れていましたが、今回はまさかの地球人側の都合によってその時間がなくなってしまう事態に陥るのです。

そんな時に登場するのが、アイラちゃんに続く3人目の女性キャラ、古賀時緒ちゃん(以下古賀さんと呼びます)。彼女は大鳥先輩から見て、言わば地球人の象徴的存在として立ちふさがります。アイラちゃんも一応地球人側ですが、彼女は微妙に他の血も混じっているので。何より、古賀さんは「大鳥先輩は、岬一くんとどういう関係なんですか?」という、あのリコや瀧さんと同じ質問をしてきます。前の二人と違い、古賀さんは必死に聞いてくるので大鳥先輩もたじろいでしまいます。しかも瀧さんのときとは違い、自分の心臓を持つため本当はオルベリオ側であるはずの広瀬くんが文化祭という地球人側の事情で一緒にいられない時にこの質問がきたわけで、古賀さんは大鳥先輩にとって自分と広瀬くんの間に立ちふさがった地球人として認識されることになります。

しかし地球侵略の仲間とも言えないため、ここで大鳥先輩が返す答えはやはり2巻の瀧さんのときと同様「キスはしたもん!」しかないのです。大鳥先輩は広瀬くんを大切に思うようになったとはいえ、それはまだキスという形でしか証明されたことがないのだから仕方ありません。瀧さんのときといい古賀さんのときといい、大鳥先輩が基本的にキスを恥ずかしがっていないのは、恋愛感情ではなく「誰かを大切に思う気持ち」に基づくものだったからでしょう。……いや、2巻のスカートの件といい本当に疎い可能性も……でも付き合ってる云々にもちゃんと答えてるしなぁ……。

それはさておき、そんなときにユーシフト族がやってきます。大鳥先輩は早く広瀬くんと帰りたいため、一人で迎撃に向かいます。その後広瀬くんとリコの助けもあって一時撃退に成功するのですが、問題はその後です。

「俺もみんなと一緒に駅まで行くよ、危険だしな」(3:112:4)

「先輩も一緒に来てくれるだろ?」(3:112:6)。

113ページでは広瀬くんが下校する生徒≒地球人(古賀さんもいる)の方に立って大鳥先輩を読んでいます。この状況、今までのやりとりを念頭において読み直すと、オルベリオ側の筈の広瀬くんが、ようやく二人きりになれるはずの状況で、一緒に過ごせなかった地球人の方に混ざろう、と呼びかけていることになるのです。大鳥先輩にとって対等な他人は広瀬くんしかいないのに、その広瀬くんはあろうことか地球人側に立っている。これにショックを受けた先輩はキレて一人で帰ってしまいます。

そして文化祭当日。うんうん悩んだ大鳥先輩の出した答え、それは「そこまで言うのなら地球人側に混ざって地球人っぽくやる!!」というものでした。キラキラ大鳥先輩降臨の瞬間です。天邪鬼ですね。見た目可愛いですが終始キレっぱなしです。

勿論そんなこと察せられるわけもない広瀬くん、頓珍漢な答え(ではないのですが、大鳥先輩からするとてんで的外れ)しか返せません。大鳥先輩は広瀬くんを盗ってった地球人の象徴(として認識できる)古賀さんにイライラしますが、だからといって何ができるわけもなく、そのまま突っ走ります。そして倒れます。

そんなときにユーシフト族と第二戦。164~165ページで大鳥先輩は自分の気持ちをようやく吐露します。ただ「二人っきりで」という言葉が抜けていますが。あくまで一緒にいたいのは広瀬くんだけです。

するとその広瀬くんが壇上に上がってきます。広瀬くんは1巻で地球侵略、つまり大鳥先輩の目的に協力する決意をはっきり決めた後、2巻でリコに殺されかけています。あのとき一度自分が死んだこととリコが大鳥先輩に目の前で殺されかけたことは、「自分が地球を守るためには相手と命がけで戦わなければない」という覚悟を広瀬くんに植えつけました。しかし大鳥先輩にとっては広瀬くんが危険に晒されてしまったことへの後悔が残り、そのせいで一人でユーシフト族と戦いに赴きます。広瀬くんは心臓の力を使ってリコと共闘するのですが、そこで先ほど言及したすれ違いが起こってしまうのです。広瀬くんは大鳥先輩の地球侵略をもっとちゃんと助けようとしていて、大鳥先輩は広瀬くんと過ごす学校生活をもっと大事にするために地球侵略を一人で果たそうとする。1巻の3~4話で二人がそれぞれの日常や目的に関わり始めたのが、2巻の出来事を通してここでより深い形ですれ違っていることが分かるでしょう。

その広瀬くんもようやく大鳥先輩の心情が(一部)分かったため、自分のために心臓を使いたかったのではなく、大鳥先輩の力になりたかったんだと自分の気持ちも打ち明けます。ここでようやく二人の誤解は解け、ついでにユーシフト族も退治されます。

184ページでの二人のやり取りは3巻を通して続いた二人のすれ違いの終着点と言えるでしょう。広瀬くんには地球人側の役に立ちたいという欲があるのではなく、「焙煎職人になりたい」という目標がある。「家族を守る」という地球侵略に加担する目的以外に、彼が望むものはそれぐらいしかないのです。大鳥先輩はそれをここで理解します。また広瀬くんも、大鳥先輩の役に立ちたいと本気で願うようになったり、大鳥先輩が地球人らしく振る舞って自分から一時離れてしまった様子を見て、少しづつですが我がままで自分勝手な大鳥先輩のことも受け入れられるようになっています。

3巻を大鳥先輩の成長の視点でまとめるのなら、「地球人やオルベリオ人といった立場の交錯を通して、そのような立場に縛られない自分自身の望みというものがあることを知った」となるでしょう。これは1巻において大鳥先輩が「誰かを大切に思う気持ち」を広瀬くんを通して観測したのと同様であり、まだ彼女自身がそのような望みをもてたわけではありません。しかしそのきっかけとなる出来事だったことは間違いないでしょう。大鳥先輩と広瀬くん、成長の兆しがはっきりと見えてくる中、物語は4巻へと進みます。

 

4巻:何もかもが裏返しの過去の中で、広瀬くんが得たもの。

 

4巻は、ひとりぼっちの地球侵略の中でも一際特殊な巻になっています。広瀬くんがアイラちゃんのお婆さんから受け取った鏡を通して10年前の過去を追体験する話なのですからそれも無理からぬ話。この回想とも呼べる過去編は、現在と比較して過去の大鳥先輩がどのようなキャラクターなのか、また過去の追体験によって広瀬くんが一体何を得ることができたか、ここが重要となってきます。

まず注目したいのは、大鳥先輩が現在とは全く違う性格ということです。乱暴で幼稚で、今の大鳥先輩からは想像もつきません。しかもこの大鳥先輩、よく見ると所々で1巻のときの広瀬くんと立場が逆転したかのような行動をしています。1巻では大鳥先輩が広瀬くんを見つけたのに、ここでは広瀬くんが大鳥先輩を発見しています。そこから広瀬くんが大鳥先輩を追いかけるのも1巻と逆、大鳥先輩が広瀬くんを鬱陶しく思うのも1巻と逆です。まるであらゆるものがひっくり返ってしまったかに思えてしまう、それが10年前の大鳥先輩の特徴なのです。
次に注目したいのは凪です。4巻では凪が二人の関係性に大きな役割を果たします。広瀬くんは死ねと言われても凪のことを信じているし、逆に大鳥先輩はそんな凪は広瀬くんのことを嫌っていると断言します。二人が凪について全く逆の捉え方をしてしまうのは、果たして広瀬くんがより凪のことを知っているからという理由だけなのでしょうか。
ここで1巻を思い出してほしいのですが、大鳥先輩はオルベリオでも人らしい人と話した経験がなく、そのため他人との交流やそこで芽生える感情などについて全く理解できていませんでした。10年前でもそれは同じなのです。しかもこのときの広瀬くんは正真正銘ただの宇宙人で、大鳥先輩にとって本人の言う通り暇つぶしでしかありません。周りに誰一人として他人がいない。そんな大鳥先輩は、では周りに存在するものに対してどのような感情を向けていたのでしょうか。恐らくその答えは敵意や憎しみだったのではないでしょうか。仲間と呼べる人に一度も出会ったことのない彼女が、自らの任務のためにオルベリオを旅立ってから出会ってきたものはどんな存在だったでしょう。本編を読む限りでは地球を狙う他の星の敵、あるいはこれから征服されてしまう地球に住む弱い地球人。それらは大鳥先輩に対して協力的ではありませんし、ともすれば襲ってくる可能性さえあります。大鳥先輩は生まれてこの方誰からも善意を受けることなく過ごしてきたとも考えられるのです。そんな彼女が自分以外のものに対して持ち得る感情は、敵意や憎しみ、軽蔑といった負の感情ぐらいしかない筈です。自分が敵意や憎しみしか知らないからこそ、大鳥先輩は凪が広瀬くんのことをそれでも大切に思っているという発想を持つことができなかったのです。
さて、そんな二人がほしのきおくを集め終え、港を開くとやってきたのは別の星の連合艦隊。オルベリオ滅亡の知らせを突きつけられ、絶望に打ちひしがれる大鳥先輩に、広瀬くんは仲間になれると提案します。故郷の仲間を永遠に得ることができなくなり孤独になった大鳥先輩と、凪のために一人死ぬことを選んだ広瀬くんだからこそお互いがお互いの仲間になれるという提案でした。ここでも提案する側が1巻と逆になっていますが、実はそれだけではありません。ここにはもっと残酷な事実が隠れています。
「ねぇ、名前を聞かせてよしんりゃくしゃさん…仲間は名前で呼び合うんだよ。」(ページ番号未記載。18話『スノードロップ』での台詞)
仲間は名前で呼び合う。これは1巻で広瀬くんが包帯を巻いてくれたのを通して仲間というのが自分を助けてくれる存在だと知ったように、互いを名前で呼び合うという仲間の必要条件をここで知ったことになります。当然お互いを名前で呼び合おうとするのですが、よく読むと、過去編で二人は一度も名前で呼び合えていないのです。オルベリオの仲間がいなくなったから、大鳥先輩は地球人である広瀬くんと呼び合うために自分の名前を言い換えようとする。その途中で広瀬くんは死んでしまうのです。お互いのことを仲間だとは間違いなく思ったことでしょう。しかし名前で呼び合えなかった以上、仲間になりきれてはいないのです。そんな二人の関係は、『星の王子さま』のキツネの台詞の引用によって説明されていると言えるでしょう。二人は仲間にはなりきれなかったかもしれませんが、仲良くはなれたのです。それこそが大鳥先輩を10年間生かし続けてくれたものの正体なのでしょう。
夢から目覚めた後、広瀬くんは大鳥先輩の言葉を聞いているうちに思わず泣いてしまいます。何もかもが正反対の出会いだった10年前。広瀬くんの両親も死に、大鳥先輩の目的も果たされず、二人は仲間にもなりきれなかった。それでも、仲良くなれたという思いだけで大鳥先輩はここまで生きていてくれて、こうして今度こそちゃんと仲間になることができた。それが広瀬くんは嬉しかったのでしょう。本当に酷い過去だったけれど、一つだけ大切なものを得ることができて、そのおかげで大鳥先輩との(10年後の)最初の出会いをちゃんと肯定できるようになった。それが4巻の一番のポイントなのではないでしょうか。広瀬くんが大鳥先輩をちゃんと受け入れるために、過去の追憶は必要だったのです。
では、5巻に続きます。

 

5巻:地球侵略ではない、大鳥先輩の望み。

 

希の望みの話。大鳥先輩が自身の唯一の目的であった地球侵略以外にも将来の展望を持てるようになった、というのが5巻の重要なポイントとなります。4巻が長くなってしまった分5巻はもっとざっくり行きましょう。
いきなりハインラインなサブタイトルで始まる20話。夏休み前の試験勉強をしている最中、凪が大鳥先輩にこんなことを尋ねます。
「大鳥先輩は、岬一と一体どうなりたいんですか?」「将来のこととかさぁ…考えたことあります?10年後…1年後でもいいや。ずっと今が続くとか思ってませんよね?」(33~34P)
地球侵略こそが存在意義である大鳥先輩はこの質問に答えることができません。広瀬くんともあくまで地球侵略の仲間であって付き合っているわけではないので、将来のことなんて気に留めたこともなかったのでしょう。地球侵略さえ完了すればいいのですから。
そんな刺さる台詞もそこそこに夏休みへ突入。ついでに水着回が到来します。大鳥先輩やアイラちゃんの水着についてあれこれ語ってもいいのですがそれは今回の主旨ではないので省略。さて、大鳥先輩は広瀬くんが凪みたいにヴァギトについていかない≒地球人の方に行かないことに大変ご満悦。あまつさえ、胸の傷が残ってた方が地球人が寄り付かなくていいのに、なんていう意味の言葉まで言い出す始末。3巻の後、より広瀬くん個人への関心が深まっているとも言えるでしょう。
そこに地球人代表(大鳥先輩視点)こと古賀さんが再登場。「大鳥先輩は岬一くんと(オルベリオの)二人で?」と聞かれて頷くも、またもそこを理解できていない広瀬くんに覆されて焦ったりします。実はこの巻を読んでいると分かるのですが、2巻3巻とああも固執したキスはしたという証明を大鳥先輩は使わなくなっています。勿論関係を聞かれていないのもあるのですが、胸の傷のことも含め、大鳥先輩は広瀬くんと自分が仲間であるというより明確な証拠を探すようになります。
……読んでたらちょっと我慢できなくなったので少しだけ文句を言いますが、広瀬。お前見たいのか見たくないのかはっきりせい。1巻の頃から成長しとらんぞ。
プール回の後は、この漫画にしては珍しい1話完結形式のお話が始まります。某ポーランド軍の熊さんを彷彿とさせるヴォイテクさん回です。過去を失ってしまった大鳥先輩とは対照的に過去の思い出だけを持ってヴォイテクさんは帰っていきます。過去の思い出を共有はできないけど今を共に過ごせている大鳥先輩とは違い、広瀬くんにとってあらゆる証拠を残すことなく消えてしまったヴォイテクさんは思い出だけの存在になってしまう。港や魔法、ほしのきおくに新たなキャラクターの情報を漂わせつつ、大鳥先輩が持てなかったものを持つヴォイテクさんが味わい深い話ですね。
さて、ヴォイテクさんが去った後、入れ替わりに大鳥先輩弐の謎の人物、仮称チビ鳥先輩によって古賀さんがちょっかいをかけられます。そんなところに丁度通りがかってしまった広瀬くんと大鳥先輩。謎の人物に考えを巡らせようとしても目の前で展開される古賀さんと広瀬くんのやり取りにやきもきするばかりの大鳥先輩。しかも、2話のときに自分が包帯を巻いてもらったのとダブるかのような、古賀さんのハンカチ巻き。これは耐えられません。大鳥先輩はアイラちゃんが龍介と楽しそうにラブコメしているのをよそに、秘密基地で挽回せんと乗り出します。具体的に言うとハンカチを巻きまくります。これは!私が!広瀬くんに巻いたから!だから広瀬くんと私は仲良し!……みたいな、こう、マーキングのようなことをする大鳥先輩。……いや、これがいいんだ。これでいいんだ。……いいのかな……。
秘密基地の掃除も一段落すると、大鳥先輩は基地への道順を変えようと言い出します。ここで5巻の大事なアイテム金木犀が登場します。と言ってもこの時点ではただ大鳥先輩が興味をもったものでしかありません。ページ上ではすぐ再登場しますが、恐らく作中時間ではもっと期間が空いているのでしょう。広瀬くんの服も変わってますし。
その金木犀が再登場する、敵との戦闘直前の二人の会話。広瀬くんと大鳥先輩、デパートらしき建物の屋上にいますけど、これは多分大鳥先輩が二人をここに連れて来てから一旦降りて、アイラちゃんと準備をして戻ってきたのでしょう。その会話の中で、大鳥先輩は「もし明日こんな日々が突然終わってしまっても……」と言います。そう、4巻で過去の大鳥先輩が地球侵略の暇つぶしとして広瀬くんを連れ回したように、今広瀬くんと過ごす生活もまた暇つぶしなのです。しかし、そこで広瀬くんが金木犀を話題に持ち出します。確かに暇つぶしかもしれない。地球侵略が完了したらなくなってしまうかもしれない。それでも、その日々を楽しみにすることは決して間違ったことではない。広瀬くんは大鳥先輩にそう言いたかったのでしょう。1巻で広瀬くんは先が見えないことに焦りを感じていましたが、ここでは大鳥先輩は逆に先の楽しみや目標をはっきり見据えることでその日々を、地球侵略とは関係ない日常を楽しめるようになったのでしょう。ラストの凪と一緒にいるチビ鳥先輩のインパクトでどうしてもここのやり取りは忘れてしまいがちですが、大鳥先輩は確実に変化してきているのです。その変化がどのような結果に至るかは、6巻以降の展開に託されることになります。

 

6巻:大鳥先輩を支えてきたものがもう一度、折れる。


6巻の帯にはこんなことが書かれています。『ひとりぼっちの先輩に、「故郷」がやってくる。』ここでいう故郷ってなんでしょう。機動戦士ガンダムの最終回でアムロは「まだ僕には帰れる場所があるんだ」と言いつつも、帰るのはサイド7ではなくホワイトベースのみんなが待つランチでした。帰る場所とは、誰かが待っていてくれるところなのです。待っていてくれる誰か、それは大鳥先輩にとっては自分の任務の達成を待つ仲間ということになります。そんな仲間が地球に来るからこそ、故郷がやってくる、としたのでしょう。果たして、そこには何が待っているのでしょうか。
先は気になりつつも、まずは前半の体育祭から。大鳥先輩がまた忙しかったろうにあんまりストレスになっていないのは、あんまり地球人だのオルベリオ人だのを気にしなくなり始めているからなのでしょう。ここで注目したいのは広瀬くんと凪の勝負。広瀬くんは特に気にせず逃げ回り、凪は絶対に勝つと意気込んで臨んだのに勝ち切ることができない。広瀬くんは凪の方が勝てていたと主張しますが、ちゃんと勝たないと意味がないときっぱり。男らしいやりとり、なんでしょうね。アイラちゃんは騎馬戦遠くから眺めて野蛮の一言ですが。……この体育祭、アイラちゃんとか大鳥先輩とかアイラちゃんとかアイラちゃんとか素晴らしいんですけどね、ざっくりまとめるので省きます(吐血)。
後半、体育祭閉会直後に敵宇宙人がやってきます。同時にチビ鳥先輩も自分ここにいるよアピール。大鳥先輩と広瀬くんは二手に分かれます。広瀬くんの方から見ていきましょう。体育祭では逃げ回った広瀬くんが、リコを助けるために敵から逃げずに戦い続ける。リコも本当は広瀬くんが死んでしまった方が都合がいいのに、命がけで戦ってくれた広瀬くんを救うために敵に飛びかかっていく。2巻において命がけで敵と戦う覚悟を決めた広瀬くんが、大鳥先輩のいない状況でも誰かを守るために闘う様子からは、1巻でゴズ星系の宇宙人を前に絶望しかけた広瀬くんとは別人です。広瀬くんとリコ、二人の成長を見ることができた戦闘だったと言えるでしょう。
一方の大鳥先輩。彼女は今まで、オルベリオ人は自分の仲間であると信じて疑ってきませんでした。生まれて以来仲間であるはずのオルベリオ人と一度も会えなかった大鳥先輩は、地球侵略を果たすことでまだ見ぬ彼らに会うことが唯一の望みとして生きてきたのです。広瀬くんと共に過ごすようになってから地球人をはっきり見下すようなこともなくなってはきましたが、それでもなおオルベリオ人と出会うことで仲間を得られると期待していたのです。しかし、目の前に現れたオルベリオ人はそれを否定します。大鳥先輩のせいでオルベリオは滅んだ。彼女はそう言いながら大鳥先輩を攻撃し、殺そうとします。大鳥先輩から見て、例えオルベリオ人であったとしても彼女は仲間であるとは思えなかったでしょう。彼女はその存在だけでもって、大鳥先輩の地球侵略という存在意義、そしてオルベリオ人の仲間と出会うという唯一の望みを根本から破壊したのです。
双方の戦闘が終わった後、最後に出てきた3体の宇宙人を凪が一掃します。本当にインパクトのあるシーンです。体育祭では逃げ回った広瀬くんと全力で頑張った凪が同点だったのに対し、広瀬くんが全力を尽くしてようやく一体倒した敵を、凪は一人で右腕で薙いでみせただけで3体倒すところに二人の対比があります。5巻の頃から共に行動していたチビ鳥先輩と凪ですが、これでより大鳥先輩と広瀬くんの鏡合わせとしての二人のコンビが確立された印象があります。これから、お互いのコンビにあるものとないものを突き合せていくことになるのでしょうか。
最後は自分が縋ってきたものを失ってしまった大鳥先輩が茫然と夜空を見上げる光景が描かれます。今まで大鳥先輩が何度も凹んだり辛い目に遭ったりする度に、それを救ってくれたのは広瀬くんでした。オルベリオの仲間を全て失ってしまった今、彼女を助けられるのはやはり彼だけです。広瀬くんは大鳥先輩をもう一度立ち上がらせることができるのでしょうか。7巻へと続きます。

 

7巻:私の心臓を持っているあなただから。

 

全てを失った大鳥先輩が立ち直るのが7巻です。一言でまとめるとこうなります。とは言え一言でまとめるのは乱暴なのでもっと読んでいきましょう。
自分の使命、そしてやっと手に入ると思ったオルベリオの仲間を失った大鳥先輩は秘密基地に閉じこもって自分の存在を無意識に無かったことにしようとします。ここは4巻の繰り返しですね。あの4巻の過去編のラストと同じ状態まで大鳥先輩はやってきたということになります。そしてそのことを知っている広瀬くんにはそれを見過ごすことができません。すぐにもう一度探しに行きます。秘密基地のパスワードが分からずに苦戦しますが、ここで出てくるのが5巻で登場した金木犀です。大鳥先輩が地球侵略以外の将来の展望を、次の季節への楽しみという形で見つけられたきっかけです。もしも大鳥先輩が相変わらず地球侵略以外に希望を見出せていなかったら、広瀬くんでも見つけきれなかったでしょう。あそこで金木犀を通してその後の自分についてほんの少しでも思いを馳せられたからこそ、広瀬くんは大鳥先輩のところまで辿り着けたのです。
またこれは、広瀬くんが大鳥先輩について以前より深く理解できていることを示すものでもあると言えます。大鳥先輩とずっと一緒にいた彼だからパスワードを解くことができたのですから。ただ、それは大鳥先輩にはどうもピンとこなかったようです。もしかしたら、大鳥先輩は相手が何を考えているのか、言葉で語られない限りは理解できないのかもしれません。元々他人と交流する経験がほとんどなかった大鳥先輩のことですから、相手の普段の行動から一定の傾向を見つけて、相手の気持ちになって考えるという発想がないとも考えられます。逆に言えば、大鳥先輩はこれからそういう考え方を身に付けなければならないということにもなるのですが、そういった部分の成長を見られる機会は今後あるのでしょうか。
地球侵略というアイデンティティを失っても、もう一度自分が自分であるために、真実が知りたいと叫ぶ大鳥先輩。二人はアイラちゃんの祖母からオルベリオの歴史を知らされることとなります。まぁその歴史自体はざっくりまとめたいので割愛するとして、その後大鳥先輩はいよいよ10年前の出来事を「知る」ことになります。ここが7巻の中でも一番難しいところなのではないかと個人的には思っています。知った後、広瀬くんに振り返った後の大鳥先輩の表情。なぜあの悲惨な事件を知っても彼女はああいう顔表情になれたのか。それを理解するためには、ちょっとページを飛ばして先に進まなければなりません。
「先輩が俺に心臓をくれた時、あいつ「最期に…」って言ってたんだ。今日、先輩は10年前の出来事を「知った」けど「思い出した」訳じゃない。繋がりが…一度絶たれてるんだ。」
「俺はあの時、先輩も一度死んだんだと思う。街は元に戻っても死んだ人は生き返らせてもらえなかった!でも、それで今の先輩を責めても…」(129~130P)
この広瀬くんの台詞がないと、大鳥先輩のこの表情を理解するのはちょっとしんどいものがあります。つまり、大鳥先輩にとって過去の大鳥先輩と今の自分には繋がりが無いのです。だから過去の過ちを見せつけられても自分の罪と強く受け止めることができない。あくまで情報でしかないのです。だから過去の出来事を知っても辛い顔はしていない。では、笑っているのは何故なのでしょうか。それは、たった一つだけ過去の先輩と今の先輩を繋いでいるものがあるからです。それは勿論、広瀬くんに授けた心臓。これだけが過去も現在も変わらず残っているものなのです。元々広瀬くんと仲間になったのは、地球侵略のために心臓が必要であるのと同時に、心臓を持つことによって広瀬くんが実質オルベリオ側になったことが最初の理由でした。しかしこうしてそれらが無くなった今、その心臓はオルベリオの心臓ではなく大鳥先輩の心臓として、大鳥先輩と広瀬くんを繋ぐ唯一の絆になったのです。
そして、アイラちゃんのお願いを突っぱねる大鳥先輩。二人だけのひとときをこよなく愛してきた大鳥先輩にとって、過去の広瀬くんとのやり取りもまた味わい深いものだったのでしょう。当時の大鳥先輩は暇つぶし扱いしていましたが、まぁ昔と今は断絶していますから。
オルベリオの話が終わったと見るや唐突に自分のことを語り始めるアイラちゃんの祖母。いきなりなんだろうと思われる方もいたでしょうが、これはつまり、4巻の時点では謎だったその意図や立ち位置を明確にするとともに、大鳥先輩の今後について遠回しなアドバイスをしているのです。エラメアは観測ばかりで干渉しない人々ばかりだったが、自分は地球を第二の故郷として最後まで住み、守るためには自ら動きもする。大鳥先輩も同じように地球を第二の故郷として、侵略するばかりで野蛮だったオルベリオの民とは違う道を歩める筈だ、とそう言っているのでしょう。大鳥先輩自身にそこまでできる自信がなくとも、広瀬くんが近くで支えてくれるなら、それも叶うのかもしれません。
他方、凪の話。さっきの広瀬くんの台詞の次に凪の台詞が来ます。
「違うぞ岬一…俺が大鳥先輩を許せないのはそこじゃない…!」(130P)
なんと、4巻から引っ張ってきた問題が広瀬くんと凪のこの会話だけで終結します。今の大鳥先輩と昔の大鳥先輩は分かたれてるので責めてもしょうがないし許すしかない。そもそも凪が大鳥先輩を別の面で許せないのでどうしようもない部分はスルーする。凪は実質10年前に犠牲になった人々の罪を叫ぶ代表みたいな立場だったので、その彼がこういう態度を取った以上、この問題は解決というか、なかったことになれてしまったのです。おっかねぇ。
そんな凪が大鳥先輩を憎む本当の理由は広瀬くんを盗られてしまったからでした。アイエエエ。泥沼化する予感しかしません。凪が岬一くん離れする以外に方法なんてないのでは……。まだ目的の見えないマーヤと相まって、ドロドロした雰囲気が漂っています。
そしてラスト、広瀬くんの心臓が大鳥先輩と一体化していよいよ機能を取り戻していきます。大鳥先輩と広瀬くんの心臓が一つになる。なんかこう、えっと、アレな響きもしますが、とにかく広瀬くんとの関係が心臓一つに絞られてきたこのタイミングで更に心臓で強く繋がり始めてるので、大鳥先輩ますます心臓を大事にしそうです。ここで注意したいのはあくまでオルベリオの心臓としてではなく「大鳥先輩」の心臓であるということ。「私の」ってちゃんと言ってますもんね。私と貴方が心臓で繋がる。物凄い密接な関係ですが、逆にその心臓を狙われそうで怖くもあります。果たしてどうなっていくのでしょうか。7巻に関しては大雑把にまとめるとこんなところです。

 

以上、7巻までざっくりまとめて振り返ってきました。つい先日8巻が発売されましたが、まずは7巻までをこれをもとに振り返ってみてから8巻を読むと、また一段と話が理解しやすくなるかもしれません。もしもこのまとめでぼっち侵略の新たな面白さなど見つけることができたら幸いです。それではまた次の機会に。

 

追記:えーっと……。すいません、各巻ごとに別記事にすることにしました……。だって、ねぇ。15000文字超って。誰が読むんですかこんな長いの。まだ全巻読まれていない方にも負担をかけてしまいますし、それぞれ情報を再整理しつつ別記事にして読みやすくしていく予定です。この記事自体を残すかどうかはまだ未定ですが、せっかく書いたことですし置いておくことも検討してみます。では。