ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

ひとりぼっちの地球侵略13巻についてざっくりまとめてみた(旧版)。

※この感想記事は旧版です。改訂版をお読みになる場合は下記のリンクよりご覧ください。

thursdayman.hatenablog.com

 

こんにちは、さいむです。

 

今回は2017年10月12日に発売されたひとりぼっちの地球侵略13巻の内容をざっくりまとめていきたいと思います。

 

www.shogakukan.co.jp

……まとめていくのですが、まず。

いつからこの漫画はSFラブコメになった!?

いえ、書いてあるんですよ、帯に。

「地球の王になるために…俺は彼と”結婚”する――!!?」

「星の命運と恋の行方。大人気SFラブコメ大波乱瀾!!」

今までだと……こう……新感覚SFとかそういう呼び方されていた気がするんですが……どういう宣伝目的でラブコメに……?

まぁ宣伝は宣伝。中身は普通にぼっち侵略ですので、今回も読んでいきましょう。

 

1.藤代暁行(自称地球)、来る。

さて、今回のざっくりまとめですが、最初は新キャラである藤代暁行と地球の話をしていきましょう。

藤代暁行は隠れ目男子小学生。彼の先祖は、霊脈孔という地球の巨大な精神エネルギーが流れる洞窟湖の水を飲んだことがきっかけで地球の意思の依代となり、暁行が現在その役目を背負っています。地球の意思とは何なのかという話ですが、まぁざっくり言えばガイア理論ですね。

ガイア理論 - Wikipedia

ガイア理論(ガイアりろん)とは、地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げていることを、ある種の「巨大な生命体」と見なす仮説である。ガイア仮説ともいう。

 地球の意思(と書いていたのでは非常にややこしいので以下地球君で)は広瀬くんが地球の王になると聞きつけ、暁行の体を借りて登場。広瀬くんが地球の王となるために自分と結婚する必要がある、と言い出します。大まかな解説はこんなところですね。

次に、このタイミングでなぜこのキャラクターが新たに登場したのか、その役割について考えていきましょう。まず一つ目の役割は、単純に作品全体の設定を掘り下げるためです。ゾキもいなくなり、新しく現れたオルベリオ王も何だかふにゃふにゃしてたり消えたりで色々喋ってくれなさそうな現在、物語を進めていくためには港やほしのきおく、アルシャの成り立ちについてなどの情報を握っているキャラクターが必要になります。暁行にその役割が課せられたのです。

勿論、そうした情報を話すだけならアイラのおばあちゃん(地味に今回ポール・ハピ―が本名であると確定しましたね。初出は3巻です)が話せばいいのですが、そうはなりませんでした。それは、彼が担っている役割が他にもあるからです。

二つ目の役割は、大鳥先輩が地球で生きていってもいいのか、という問題への赦しや、広瀬くんが地球侵略をするための目標の確定です。地球の意思というものを人の形で用意することで、これらの問題の解決への道のりが開けてくるのです。

ぼっち侵略は元々、キャラクターの背負っている罪に関してきっちり追及を行っていく漫画です。7巻でも大鳥先輩が松横市の人々を間接的に殺めたことについての問答が凪と広瀬くんの間でありましたし、その凪が12巻で命を落とした背景には、ゾキが松横市の人々を殺めたこと、また凪がそれを広瀬くんの決心を固めさせるために利用したことなどがあります。12巻のざっくりまとめで書いたように、地球で生きていけるのか、生きていっていいのかという大鳥先輩の内心の問題はほぼクリアされています。そうなると次は、それを誰が認める、あるいは保証するのかという問題が立ちふさがるわけですが、地球君さえそれを容認するのであればこの問題も解決されるのです。ぼっち侵略は松横市を舞台として描かれてきた物語なので、暁行を登場させることで、物語の設定の解決までに必要となる手順やキャラクター数を絞っているのでしょう。広瀬くんの地球侵略の方法についても言わずもがなです。

三つ目の役割は、凪が担っていたテーマの引継ぎです。そもそも暁行と凪は、お互い何かに寄生されており、時々それと人格が入れ替わる、という点で設定が似ています。恐らくこれは意図的なものでしょうが、一方で凪と暁行には対照的な側面も存在します。凪とゾキは家族や伝統といったものを受け継がず、あるいは破壊するという方針については一致しており、それが何かを継いでいく決心を固めたアイラや大鳥先輩、広瀬くんとのテーマ的な対立にもなっていました。暁行の場合、彼が地球の意思の依代になった原因は先祖にある、という部分がポイントになってきます。地球君ではなく暁行本人として物語に初登場したとき、彼はこう言います。

「先祖から引き継がれてきた家の仕事も、突然与えられるぼくのものじゃない力も、すべてが許容範囲を超えていて…ぼくが受け継ぐことができるのでしょうか。」

アイラはそれに対してやりたければやればいいし、やりたくないならやらなければいいと返答するのですが、次のページで広瀬くんとアイラはやけにドヤ顔いい顔をしています。自分達がそうしてきたことで得られたものがあると分かっているからこその、確信に満ちた表情と言えるでしょう。結果として暁行は先祖代々の役割を現状全うしており、また地球君も地球を守るために行動を起こそうとしています。暁行は凪を彷彿とさせる設定を背負いながらも、その上で広瀬くん達の側で歩んでいけるように再設計されたキャラクターとも考えられるわけです。

最後の四つ目の役割ですが、ええ、はい、ブコメです。

お前ーっ!ここまで引っ張って結局ラブコメなのかーっ!みたいなツッコミも入るかもしれませんが、この場合ラブコメは大鳥先輩と広瀬くんのために必要な要素なのです。大鳥先輩に課せられた次の問題と、広瀬くんがもう一歩先に進むための条件、それはラブコメに他ならないのです。それはなぜなのか、次で解説していきます。

 

2.13巻における大鳥先輩と広瀬くんの課題。

 

と、大仰な書き方をしましたが、まぁ要するに「前段階は一通り終わったんだから後はひっつくだけやで」ということですね。はい。

二人のここまでに至る道程を思うと中々に長かったなぁと感慨に耽ってしまいます。大鳥先輩は1巻の頃、仲間や他人というものを一切知らないままに育てられたが故にそういったものが何なのか分からない、という段階からスタートしています。そこから色々なことを学んで成長していき、前回の12巻で自分にとって大切な人のことを考えて行動することができる、というところまできました。広瀬くんも大鳥先輩がどういう人間なのか、振り回される中で少しずつ理解しながら自分にできることをやり続けてきています。

その次のステージとして13巻で設けられた課題が、「広瀬くんと大鳥先輩がお互いを男女としてどう認識しているか、一緒に居続けるということを自他が認める形で達成できるか」ということになります。3巻ないし5巻と似ているように見えますが、当時は男女とか以前に他人や仲間とは何なのか、というレベルでの問題だったので、似たようなやり取りをしていても内実は全く違うものになっています。

3巻や5巻に限らず、元々大鳥先輩は、男の子というよりも仲間や自分にとって対等でいてくれる他人といった、もっと抽象的なレベルで広瀬くんを捉えようとする地点からスタートしています。また、一緒にいるという行為自体もこれまで広瀬くん達から普通に容認されてきた以上、今回の課題はそうした現状の根っこを問い直す形になっています。その分、見た目はブコメに見えて割とハードモードです。

この課題について、キャラクター別に分けて説明していきましょう。まず暁行についてですが、これは単純な構図で、地球侵略をするためには暁行と広瀬くんが結婚する必要があり、しかしそうなると広瀬くんは大鳥先輩と一緒にいるということができなくなるという形になっています。この手の構図は実は2巻から凪が請け負っていたものでもあります。当初の広瀬くんの目的は家族を守ることであるため、凪が大鳥先輩の地球侵略の邪魔をすると、そこで広瀬くんが矛盾をかかえてしまうことになるのです。この構図は後々ゾキが肩代わりする形である程度変則的に機能していましたが、今回の暁行もその類似と言えます。

で、今回の場合は地球君が折れてくれれば基本的には問題ないということになります。まぁ後半で言っている通り、広瀬くんは既に純粋な地球人とは呼びにくい存在になっていますし(もっともあの心臓が本当にオルベリオ由来のものなのかこうなると怪しいですが)、そもそもオルベリオ王はともかく地球君の言うところの結婚が実際如何なるものなのか現状では不明なので、意外にさっくり解決しそうな気もします。実際それで地球君が折れてくれるのであれば、それは同時に地球人ではない大鳥先輩が地球に居続けられる保証に繋がるかもしれません。

次に広瀬くんについてですが、凪がいなくなったのもあって色々先走りがちな面が大体マイナスに働いています。地球の王になろうとした結果、地球君との結婚で大鳥先輩との関係が一時ぎくしゃくしてしまいましたし、オルベリオ王に張り合おうとした結果逆に大鳥先輩に罵られていますし。勢いで迫られたのを突っぱねるし。

まぁこうした状態に陥っている理由は明快で、この後オルベリオ王と対決しないといけないからなんですよね。色んな意味で。

そう!長身にして筋肉隆々な金髪のイケメンと戦わなければならないのです!

察した方もいるかもしれませんが、ざっくり言ってしまえば、オルベリオ王は何だかんだ言ったところで針山の上位互換なんですね。その分やることがハードになってきますが、基本は針山です。はい。なので、後は広瀬くんがこれにどう打ち勝つか、というのが問題になってきます。針山の場合は共に過ごしてきた時間の差が勝敗を分けましたが、果たして今回はどうなるのでしょうか。13巻のアレコレは、要するにオルベリオ王ってイケメンなんだなーという差を広瀬くんを通してじわじわ見せていると考えておくといいでしょう。

もっとも、広瀬くんに成長が一切ないとか、そういうことでもありません。大鳥先輩の身長を抜いたようですし(最低でも165㎝以上は確定的ですね)、5巻の反対で今度は広瀬くんから大鳥先輩にタオルを渡したりと、色々頑張っています。みんなで応援、しよう。

さて、最後に回した大鳥先輩ですが。広瀬くんはオルベリオ王という明確な相手がいるのに対して、大鳥先輩は対になる相手がいません。マーヤはもういませんし、暁行はどちらかと言えば凪の応用なのでこちらもややずれています。

そういった事情から、大鳥先輩は自力では解決できない困難をひたすらに叩きつけられる、という方法で課題が課せられています。まぁ大鳥先輩は広瀬くんを男性と認めてしまえばいいだけ、と言っていいぐらいにはここまでで成長してきたので、その分こうしてストレートに難題を叩きつけるくらいしか残っていないんですよね。

本人は広瀬くんと一緒にいたいにもかかわらず、オルベリオ王の思念にとらわれ、更には物理的に地球から離されてしまっています。暁行の件もそうですが、広瀬くんが自身の精神的な面を中心に課題を設けられているのに対して、大鳥先輩の場合はとにかく抗いようがないんですよね。結婚という言葉はともかく、地球の王になるためには広瀬くんは地球君の要求にある程度従わざるをえません。また、12巻の最後ではオルベリオ文字が偶然消されたために思念から解放されましたが、そうでない限り地力で思念から脱出するのは困難でしょうし、そもそもオルベリオの生まれである以上、オルベリオ王に抵抗することが不可能である可能性もあります(10巻でゾキが言っていた話ですね)。こうした中で大鳥先輩にできることと言えば、ここまで積み重ねてきた様々な経験と、それに裏打ちされた精神性でとにかく耐えることだけでしょう。それも13巻の巻末予告を見る限り、どうなるかは分かりません。広瀬くんに頑張ってもらうしかないでしょう。

まとめると、オルベリオ王や暁行をトリガーとして、ついに大鳥先輩と広瀬くんがお互いを男女として意識するようになってきたものの、広瀬くんはオルベリオ王という針山の上位互換に苦しめられ、大鳥先輩は自力では抵抗が出来ず、暁行は凪の応用で二人の間に立ち塞がる、といった状況になっています。ここまで大量にタスクを連打してくるというのはあまりぼっち侵略では見ない光景ですが、そこは最終章なだけあって、残っている要素をまとめてぶつけに来た、ということなのでしょう。後々の展開でこれらの課題がどう乗り越えられていくのか、期待したいところです。

 

 

・お詫び 

本記事に関してお詫びがあります。体調不良や同人活動の多忙化によって一時更新を休止していた本記事ですが、全体的な内容が筆者の満足するレベルに達していないと判断し、現時点の内容までで未完のまま凍結させていただきます。申し訳ありません。

ぼっち侵略13巻の感想に関しましては、先日改稿した新しい感想記事を投稿しました。上記の内容を踏まえつつ、より洗練された記事に仕上がっている筈なので、そちらをお読みいただければ幸いです。本記事の最初にもリンクを貼ってありますが、お詫びの後に改めてリンクを貼らせて頂きます。今後とも本ブログをよろしくお願いします。

(2017.12.28 さいむ)

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