ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

ひとりぼっちの地球侵略第3話・第4話についてざっくり考えてみた。

こんにちは、さいむです。

今日は、ぼっち侵略1巻の後半にあたる3話と4話について、ざっくりとまとめてみたいと思います。1話と2話のまとめを読まれていな方はそちらからどうぞ。

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1話と2話が二つで1セットだったのに対し、3話と4話は対の関係になっています。それぞれのお話を見比べると、より理解が深まるはずです。それでは、さっそく3話から見ていきましょう。

 

・第3話:大鳥先輩によって変わっていく日常と「結果を求めない」ということ。


最初は大鳥先輩が普段学校でどんな生活をしていたかを広瀬くんが知る様子が描かれます。広瀬くんは2話で家族を守るために地球侵略を手伝うことにしたのですが、当の大鳥先輩本人は適当な学校生活を送るだけの日々。放課後に彼女の読書に付き合わされるばかりで、広瀬くんは肩透かしを喰らってしまいます。1話と2話のまとめでも書いた通り、この状況は広瀬くんに心臓が渡ってしまったからなのですが、広瀬くんがそれを知るはずもありません。読書をサボって帰って来たものの、高校生活を楽しんでほしいというじいちゃんの願いから珈琲屋の手伝いもさせてもらえず、困ってしまいます。
ここで、広瀬くんの夢について今一度注目することで広瀬くんというキャラクターを掘り下げてみましょう。広瀬くんは将来天の海を継ぐことを目指しています。そのために高校生から早くもお店で働きだそうとしています。継ぎたいのが珈琲屋であるということがポイントです。珈琲は苦い飲み物。当然子どもにはあまり好まれず、大人の飲み物というイメージがあります。そんな珈琲を商売とする珈琲屋を、広瀬くんはじいちゃんへの憧れから目指しています。1話でじいちゃんがゴズ星系の宇宙人に呑まれたときの回想シーンに昔のじいちゃんが出てきます。この憧れから目指しているというところが重要なのです。2話で上手い珈琲の味が分かるようになれ、と広瀬くんは祖父に言われます。彼はまだ苦い珈琲の味を完全に理解しきれていないのです。それは大人になりきれていないことを表します。珈琲の味を知る≒大人になる、という構造で見ると、広瀬くんはじいちゃんへの憧れから早く大人になろうと珈琲の味を知ったつもりで背伸びしている子どもなのです。ちなみに長男の龍介は裏の書店で既に働いているのですが(そういえば彼何歳なんでしょうね)、広瀬くんが天の海で働こうと急いている理由は龍介が働いている姿を間近で見ているのもあるのかもしれませんね。
さて、凹んでいた広瀬くんに兄の凪から電話がかかってきます。結果を気にするより毎日続ける方が大事だと話す凪。広瀬くんは大鳥先輩との読書を再開することを決意します。そんな広瀬くんを大鳥先輩はじらしてしまったお詫びも兼ねて地球侵略の秘密基地(兼自宅)へと案内します。大鳥先輩にしてみれば、地球侵略を共にする仲間であることを広瀬くんにより実感してもらいたかったのかもしれません。入った秘密基地で大鳥先輩の淹れたインスタントコーヒーを受け取るのが印象的ですね。今はまだインスタントコーヒー―だけど―本格的な地球侵略はできないし二人で一緒に読書することしかできないけど――それでも良いと思えることになった象徴とも言えるシーンです。
読書をしながら、最後に広瀬くんのモノローグが入ります。これは……全体的に深読みし過ぎではありますが、広瀬くんらしい解釈ですね。大鳥先輩も地球侵略を目指していながら、のんびりと過ごす日々を決して嫌とは感じていない。広瀬くんの目にはきっとそう映ったのでしょう。初めて手に入れた仲間との日々を楽しく過ごそうとしている大鳥先輩に、不器用ながら少しずつ歩み寄っていく広瀬くんが可愛くもあります。
大鳥先輩の仲間になったことで、じいちゃんの後を継ぐことばかり考えていた広瀬くんが少しずつ変化していく様子が描かれるのが3話と言えるでしょう。地球侵略が彼に何をもたらすか、先が少し楽しみになる話でした。続いて第4話に

 

・第4話:決意の先の一歩と仲間を信じるということ。

 

第4話は何やら大鳥先輩が怪しげなことをしている場面から始まります。そちらは後で触れるとして、岬一くんのラテアートです。書道とはまた色々違うんでしょうか。下手ですね。珈琲自体の味に関しても何やら上手くいかなかったようで、なんだかんだ珈琲に関してはまだまだ修行が必要なようです。
で、ここからしばらくは大鳥先輩が広瀬くんに隠れて何かやってるらしい様子がぱらぱらと描かれていきます。上手いことのその度に邪魔が入ったりして広瀬くんは考えが及びません。こういう伏線を貼っている間にも、大鳥先輩が天の海を気軽に訪れるようになったり、広瀬くんが先輩の奇行にそれなりに慣れ始めたりする様子を平行して差し挟んでいるのが良いですね。展開が詰まらないように無駄なく必要なピースをはめ込んでいてスムーズに読めます。
4話はやはり後半が重要になってきます。広瀬くんに隠して一人で宇宙人と戦っていた大鳥先輩。いや、広瀬くんの心臓は大事なものでしょうし下手に戦いに巻き込んで何かあったら取り返しがつきませんし、そりゃあ一人で戦いたくはなるでしょう。けど先輩が自分で言う通り、それだけでもありません。初めて得た他人であり仲間である広瀬くんと過ごす日々を大鳥先輩は壊したくなかったのです。やって来る宇宙人と戦う毎日に広瀬くんを巻き込んでしまったら、今こうして楽しく送ることができている毎日がくるってしまう可能性もある。その不安から、宇宙人のことを広瀬くんに打ち明けることができなかったのです。あるいは心臓が自分の元に戻って来さえすれば地球侵略は一気に進んだかもしれない。けれどそうなったとしたら今目の前にいる仲間と楽しく毎日を送ることもできなかった。このジレンマが大鳥先輩を苦しめているのでしょう。
一方の広瀬くん。大鳥先輩が天の海を訪れた日の別れ際に「俺なんにもしてねぇよ!」と自分から放った言葉がここに来て効いてきます。2話で広瀬くんが「俺にできることはあんたの仲間になって、みんなを守ってくれると言ったあんたの言葉を信じることしかないだろう」も同様です。彼は仲間になりはしたものの、それ以降何もせずにいたのです。最初の戦闘のときこそ大鳥先輩の傷に包帯を巻きこそしましたが、後はそれっきり。大鳥先輩が何かしようとするのを待っているだけでした。何も知らされていなかったとはいえ、自分が何もできないことと、自分から何もしようとしないこととは全く別の問題なのだと、広瀬くんはここで思い知らされます。決意だけではない、もう一歩が必要な場面に直面したと言えるでしょう。
そしてあのカッコいいシーンです。いやー、カッコいいですね。うん。良い。この台詞には大鳥先輩にだけでなく、自分に対する「もう大鳥先輩をひとりぼっちにはさせない」という強い思いがあるのでしょう。3話の秘密基地で大鳥先輩の境遇に思いを巡らせていたからこそ放つことができた言葉だと思います。更にわざわざ胸を見せてまで自分は大丈夫だから心配しなくていいんだとアピールする広瀬くん。1話で胸に触れられただけで慌てふためいていたときと同一人物なのでしょうか、これは。イケメン強度が加速していきます。
大鳥先輩はそれを聞いて泣いてしまいます。広瀬くんと二人で地球侵略という任務に立ち向かうことができる。それがやはり嬉しかったのでしょう。確かに心臓がないせいで地球侵略は上手く進まないかもしれないけれど、その代わり広瀬くんがいる。地球侵略をしているときもそうでないときも、彼女は孤独ではなくなったのです。それは大鳥先輩と広瀬くんが互いを信じ合える仲間だから可能になることで、その意味では大鳥先輩はこのとき初めて広瀬くんを仲間として本当に信じることができたのかもしれませんね。
最後の部分ですが、ここでさり気なく別れ方に関して言及しているのがちょっと気になりますね。これから先二人が別れてしまうときがやって来てしまうのでしょうか。あと広瀬くん、いつだったかな、思い出せないな、って、それ絶対10年前ですよ。ここまでの情報まとめましょうよ。頑張って考えよう。整理すればなんとか分かるぞ。

 

・まとめ。

 

さて、ここまでが4話のざっくりしたまとめになります。3話と合わせて振り返ってみましょう。3話は広瀬くんの過ごす日々が大鳥先輩との出会いを通して変化していく様子が描かれます。対して4話は大鳥先輩の唯一の存在意義とすら言える地球侵略とそれに対する彼女の意識が、広瀬くんによって変わっていく様子が描かれています。お互いの生活にそれぞれが入りこんでいくことで二人が少しずつ成長していく、その契機を2話の対比によって示していると言えます。第1話と第2話をひとまとめにしつつ上手く情報を配置して先の展開をそっと垣間見えるようにし、第3話と第4話を対比させることでそれぞれが成長していくことを示唆する。1巻の中で必要なものを巧みな演出を交えつつもかなり堅実に練り込んでいるのが分かると思います。柔らかい絵柄が魅力の作品ではありますが、作話の方も相当に力が入っています。ここに注目して次巻以降も読んでみると、新たな面白さを見つけることができるかもしれません。

以上、3話と4話のざっくりまとめでした。これを読んだ皆さんがぼっち侵略を更に更に楽しめるようになって頂ければ幸いです。ではでは。