ぼっちQ&A!~小川麻衣子作品感想ブログ~

『ひとりぼっちの地球侵略』や『魚の見る夢』等、漫画家の小川麻衣子先生の作品について感想を綴ったブログです。

『ひとりぼっちの地球侵略』は何を目指してきたのか。【はじめに】

【はじめに】

 

『ひとりぼっちの地球侵略』のテーマとは何か?これを探ることが本シリーズの目的です。『ひとりぼっちの地球侵略』は往年のSFボーイミーツガール作品を彷彿とさせる内容である一方で、大鳥先輩と広瀬くんによるのんびりとしたやり取りが多く、またその柔らかい絵柄から、物語に比重が置かれた作品ではない、という感想が比較的目立つのも事実です。

実際のところ、『ひとりぼっちの地球侵略』は一つのテーマを徹底的に突き詰めていく作品です。物語は勿論のこと、その演出や微笑ましいやり取りさえも、作品のテーマを達成するためのパーツになっている側面もあります。『ひとりぼっちの地球侵略』はそうした意味において、恐ろしい程にストイックな作品なのです。

しかし、そうしたストイックさに言及する人はそう多くはありません。それはすなわち、『ひとりぼっちの地球侵略』がそのテーマを読者がすぐ体感できるような形では表出させていないことを意味します。何故、『ひとりぼっちの地球侵略』は自身に課したテーマにストイックでありながら、それを読者に対して突きつけることをよしとしなかったでしょうか?その理由は、実は読者に対してテーマを明示しないことこそが、ぼっち侵略が自身のテーマを達成するために不可欠な要素だったからです。

読者に対して自身を開示することで価値を生み出す筈の漫画でありながら、その一部を隠してみせることで自身のテーマを果たそうとした『ひとりぼっちの地球侵略』。そこに迫ることで、一体何が見えてくるのでしょうか。その実態に、これから挑んでいこうと思います。拙文ながら、皆さんに楽しんで頂ければ幸いです。

 【全体の概要・構成】

本シリーズは、ゲッサンにて2012年4月より連載されてきた小川麻衣子の漫画『ひとりぼっちの地球侵略』(以下ぼっち侵略)について、様々な角度から考察を行っていくものです。ぼっち侵略という作品全体のテーマと、そのテーマを達成するための作中における具体的な実践を解き明かすことが主な目的となります。

本シリーズの全体の構成を説明します。まず、ぼっち侵略以前の小川麻衣子作品に注目し、そのテーマを考察することでぼっち侵略のテーマを考察するための土台を構築します。その上で、そうした小川麻衣子作品を通して蓄積されたテーマがどのような変遷を通してぼっち侵略のテーマへ辿り着くに至ったか、その思考の掘り下げを行います。

次に、ぼっち侵略がそのテーマを実践するために作中で行った様々な取り組みを、それぞれ「思考」「感情」「経験」の三つに分類・解説します。その中で、ぼっち侵略が自身のテーマを達成するために、そのテーマに取り組んでいるという軌跡自体を読者からある程度隠す必要があったことを解説します。

その後、大鳥先輩と広瀬くんの二人の立ち位置について論じ、二人がどのようにお互いにアプローチし、またその立場が逆転するに至ったかを解説することで、ぼっち侵略の既刊12巻までの流れを総括します。

言及する内容が多岐に渡るため、本記事は幾つかの章に分けて掲載する予定となっています。現状の構想は以下の通りです(今後変更の予定あり)。

⑴『とある飛空士の追憶』以後の作品における小川麻衣子作品のテーマの変遷

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⑵ぼっち侵略における、作品テーマの実践段階までの掘り下げ

⑶ぼっち侵略を構成する三要素の解説

小川麻衣子作品における「宇宙(海底)」と「地球(地上)」

⑸広瀬岬一と大鳥希の志向性とその逆転について

なお、本記事はその性質上、ぼっち侵略他小川麻衣子作品に関するネタバレを多数含みます。また、ぼっち侵略各巻の読解に関して、一部弊ブログの記事を引用することもあるので、ご了承ください。

  

⑴『とある飛空士の追憶』以後の作品における小川麻衣子作品のテーマの変遷へ続く。

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ひとりぼっちの地球侵略12巻についてざっくりまとめてみた【後編】

※注意!

・本記事には5月12日発売の『ひとりぼっちの地球侵略』12巻に関するネタバレが存在

 

こんにちは、さいむです。

今回は5月12日に発売された『ひとりぼっちの地球侵略』12巻の内容をざっくりまとめて語ってみたいと思います。よろしくお願いします。

なお、ざっくりまとめようとしたものの少し長くなってしまったので、今回は【前編】と【後編】の2本立てになりました。ご了承ください。

【前編】についてはこちらからご覧ください。

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【最終章、開幕】

ぼっち侵略12巻は、第56~58話までのゾキとの最終決戦、第59~60話からの新学期と新展開の話に大きく分かれています。【後編】では、第58~59話、最終章への導入の部分を見ていきます。

 【春、新学期】

 さて、まずは第59話『新学期の到来』の前半部分から見ていきましょう。第59話は1巻の第1~2話における入学式前後の青箱高校の様子を元にした演出が散見されます。1年生の頃の入学式ではおじいちゃんに殴り起こされていた岬一でしたが、今回は桜見していたための遅刻で割と同情の余地がありません。1年生の頃に悠々と初登校していたというのに……。

それはそれとして、リコと一緒だったり、池を跳び越す大ジャンプをしていたりと、1年前との違いが色々と分かる通学の様子が描かれてもいます。岬一がこの1年でどう変わったかがこの時点でも分かりやすく示されていると言えるでしょう。

遅刻した岬一が小林先生に無事怒られているところに、大鳥先輩も遅刻してきます。ちゃんと青箱高校の制服を着ていることを主張していますが、実は大鳥先輩が他の学校の制服を着ていたシーンってそんなに多くはないんですよね。最後は2巻第9話だったはずですが、ともあれ、ここも1巻当時のやり取りをもう一度繰り返しています。

 ここで大鳥先輩に関する回想がここで差し込まれますが、これについては第60話でまとめて後述するので一旦後回しにしましょう。回想の後、スガワラと岬一が話す様子も1巻1話同様に描かれます。違うのは、凪に関する話題がないということ。変わっていない部分と変わっていった部分、変わってしまった部分を改めて読者に明示していくことがこの入学式のシーンの役割なのでしょう。

【新たな目標と始まり】

次に、第59話においてキルシスの宇宙人が襲ってくる後半部分を見ていきます。ゴズ星系はゾキが倒され、地球近くに停泊させていた宇宙船も墜落。残るはキルシスとヤフマナフになったため、そのうちの一星系がまた干渉しようとしてきた、という形です。ゴズ星系の宇宙人は機械系かつ特徴的な文様(もっと言うとあの顔)がトレードマークでしたが、キルシス星系の生体兵器は魚に似たフォルムをしています。

さて、ここでの宇宙人の襲来も、やはり1巻の第1~2話におけるゴズ星系の宇宙人の襲来を踏襲しています。戦いたくない(戦えない)岬一と、それでもある種無機質に戦おうとする大鳥先輩。勿論、ここで二人がそうする理由は1巻とは異なっています。1巻の岬一はおじいちゃんを失うかもしれないという恐れで足がすくんでいました。対する12巻では、既に凪を失い、街にも被害を出してしまったという思いから戦いを避けたいという気持ちが強まっています。

一方の大鳥先輩は、1巻では「誰かを大切に思う気持ち」が分からないので、とにかく無条件で岬一の望みを叶えようとしていました。12巻では、岬一の気持ちを理解しているがために、より意識的に、頑固に岬一や街の人々を守ろうとします。それは「地球を自分の新たな故郷にしたい」という自身の願いも含まれているのでしょう。1巻ではただ無理解であったがために岬一との間に認識のズレが発生していましたが、12巻では寧ろ理解しているがために、岬一を置き去りにしてでも岬一のために動きたいという強い決意が表れています。

 が、ここでキルシスの宇宙人がオルベリオ語を用い始めると、お互いの立場が逆転します。大鳥先輩はマーヤ(同じオルベリオ人であり姉)を失ったことを連想させられたのか、足が止まってしまいます。 一方の岬一は、大鳥先輩の前に出て心臓の力を発動、第60話で説明される「重力場」を用いて宇宙人を撃破します。そしてその勢いで、彼は宣言します。

「…宇宙人がしつこく港を通って来るのなら、その港を閉じてやる。港を完全に封鎖するんだ!!」【12巻139~140P】

ここでの宣言は、1巻第1話における大鳥先輩の発言と対になっています。

「二人で一緒にこの星を征服しましょう!」【1巻56P】

二人が握手をしているのも同様ですね。第2話104Pでも握手をしていますが、手の握り方や二人の立ち位置、敵との戦闘等を踏まえるとやはり1話の方がより近いかもしれません。

 岬一が立ちすくむ間に大鳥先輩が戦おうとする1話の踏襲から、一転して立場が逆転した対になる演出が為される。これが第59話後半の大きなポイントです。前半と合わせて考えると、全体の構図がよく分かります。入学式から宇宙人の登場までは、1年を通した変化こそ時折差し込まれるものの、基本的には1巻の踏襲でお話が進んでいきます。しかし、敵がオルベリオ語を用いた瞬間に、大鳥先輩と岬一の立ち位置がそっくり入れ替わるのです。

1巻では、大鳥先輩は慣れていなかった誰かと過ごす日常に、岬一は今まで思いもしなかった宇宙人との戦いに、それぞれ足を踏み入れています。ここから12巻第58話までは、お互いにその知らなかった世界にどこまで足を踏み入れていけるのか、という物語でもありました。それが一区切りを迎えた第59話では、結果としてお互いの立ち位置がひっくり返ったのです。平和を願うが故に自分から非日常に率先して足を踏み入れていく岬一と、「誰かを大切に思う気持ち」を理解し、地球で生きていきたいという願いを手にしたために日常へと向かう大鳥先輩。ぼっち侵略の2年目は、この構図で物語が進んでいくと考えられるのです。

 【鎖星】

ここからは第60話『幕開けの予感』を見ていきましょう。第59話はどちらかと言えば2年目における大鳥先輩と岬一双方のメンタリティーに関する掘り下げが行われた話でしたが、第60話では主に設定周辺の整理と布石が行われることになります。まずは鎖星による地球の封鎖について三人と一匹が話し合うシーンから見ていきましょう。

いろんな人に背中を押されて進んできた岬一の回想から始まる第60話ですが、ちょっと気になる部分があるので寄り道しましょう。岬一の通信機についてです。何故彼と言い、誰もスマホを使わないのでしょう。4巻でおじいちゃんが携帯電話を使っていますし、11巻8Pで街の人々がスマホを見ているシーンもあったので、スマホが一切でてこないわけではないのですが……まぁ、割かし物語で扱いにくいですからね、スマホ

閑話休題、大鳥先輩がご飯を食べ終えて、いよいよ鎖星に関する話し合いが始まります。

元々、ぼっち侵略というお話は1巻の頃から港をどうにかすれば大体の問題は解決するようにできていました。この辺りは以前ブログに書いたのでそちらをご参照ください。

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で、その港を閉じれば何とかなるんじゃない? というアイディアがいよいよ岬一の口から出てきたわけです。勿論1巻の頃から大分設定が増設されてきたので、一筋縄ではいかない状況になっています。現状、大きな課題は以下の三つです。

①鎖星・港を管理する技術ないし魔法について三人が把握しきれていない。

②心臓が岬一に移動しているため、10年前よりある程度手間がかかる。 

そもそも地球に港が作られた理由がまだ明らかになっていない。

順番に解説していきましょう。まずは①からです。ぼっち侵略において、港に関する重要な設定が特に集中しているのは4巻と7巻です。これらは港に関する幾つかの情報を開示していますが、それらによって全て港に関する全ての情報が明らかになったとは言い難いです。オルベリオ人であり、港の管理者である大鳥先輩自身もその完全な管理には至っていない以上、鎖星にはまず技術的な問題が立ちふさがります。解決するためにはアイラの祖母をはじめとする他の宇宙人の力を借りなければならない可能性が高いです。

 ②は単純な理屈で、岬一の心臓は港の管理にも何らかの役割を果たしている可能性があるからです。この点については先に挙げた1巻の感想でも書いています。そうでなくともオルベリオ語(魔法)を使える大鳥先輩と心臓を持つ岬一、つまり港に干渉できる魔法の使用者と港の鍵になり得る心臓の所有者が別々になったのでその分10年前よりも手間がかかるのです。

③は、恐らくは今後のぼっち侵略における重要なポイントです。オルベリオと地球(アルシャ)に何らかの関係があることは明らかですし、それはすなわち港にも大きな役割があることを意味します。物語の動かし方を考えれば、港が本来なんであったのかを開示することなく作品が終わることは考えにくく、それ故港に関する設定が全て明らかにならない限り鎖星もできないということになります。

これら①~③のポイントは上手くまとめれば1巻の中に収めることはできるでしょうが、その他諸々の問題も含めると、中々そういかなさそうです。ただ、いよいよ本格的に港に関する問題を解決しようとし始めたのも事実ですから、落ち着いて見守っていきましょう。

【金髪、長身、筋肉質(なおイケメン)】

鎖星に関する話し合いが終わり、大鳥先輩が秘密基地に帰った頃、岬一はアイラちゃんの計らいにより、イチゴを手土産に秘密基地へ向かうことになります。すると、秘密基地の様子が変です。中を覗くと、そこには謎のイケメンが。恐らくぼっち侵略における新たな障害となるべき存在でしょう。本項ではこのキャラを中心に、岬一と大鳥先輩それぞれに立ちふさがる今後の課題について考えていきます。

まずこのイケメンは何者なのか。ヤフマナフ関係者でもないのにリコを操れるということは、ヤフマナフより更に強い権限を持つオルベリオに由来を持つ者であることは間違いありません。なぜキルシスの宇宙人がこのイケメンを発現させるオルベリオ語を行使したのかは謎ですが、ともかくオルベリオ由来であることは確かです。

次にこのイケメンは大鳥先輩を「マナ」と呼びました。ヤフマナフから抜粋して「マナ」というのでもないのであれば、恐らくこの名称は大鳥先輩やマーヤのオリジナルになった存在の呼称である可能性が高いです。つまり大鳥先輩のオリジナルになった存在と繋がりがある、それなりに古い存在である可能性も考えられます。

他の発言に注目すると、「よくぞここまで成長した」という台詞も見受けられます。ゾキは岬一の心臓を岬一の体内で育てた後、その力を奪い取ろうと画策していましたが、心臓を岬一が持っていることに激怒したこのイケメンも大鳥先輩の心臓が大鳥先輩の体内で育つことを望んでいたようにも思えます。

「また」「一から始めよう」というワードにもヒントがありそうです。オルベリオの歴史において「一から始めた」出来事と言えば、144代オルベリオ皇帝の出来事が思い出されます。彼は4億年前に地球に向かい、そこで一人で港を作り、オルベリオへ帰還。その後オルベリオ帝国を築きました。オルベリオ人は元々強い力を持っていましたが、それはオルベリオやエラメアが存在した宙域にそのような力があったためであり、地球とは関係がありません。その強い力を以てしても144代まで帝国を築き上げられなかった事実を考えると、144代オルベリオ皇帝を後押しする何らかの力が地球にあった可能性は十分考えられます。

もしも144代オルベリオ皇帝が辿った道筋を「また」繰り返そうというのなら、それはすなわちこのイケメンが144代オルベリオ皇帝か、あるいはその残滓であることになります。が、すぐにそう結論づけることはできません。大鳥先輩を送り出したオルベリオ王が年老いた144代オルベリオ皇帝であった場合、面識があるためすぐに気づく可能性があるからです。年老いたオルベリオ王は仮面をつけていたため分からない可能性もありますが、10年前に大鳥先輩が港を開く際「王さま」に呼びかけていたことや、おなじオルベリオ人であるマーヤの存在を感知できたことも考慮すると、オルベリオ王とすぐに決めつけるには不確定な要素が多いのは確かです。

このイケメンが大鳥先輩の中に置かれた種から発現した(つまり大鳥先輩自身から出てきた)という点をはじめ、まだまだ考察材料はありますが、一旦ここまでにしておきましょう。考えるべきは、このイケメンが今後物語においてどのような役割を果たすか、です。大鳥先輩と岬一の障害になることは間違いありません。ですが、大鳥先輩と岬一それぞれにとってその意味合いは変わってきます。

まず大鳥先輩ですが、彼女にとってこのイケメンは逆らうことが難しい存在です。「俺たちは魂で通じ合っている」というイケメンの発言もありますが、本人の意思にかかわらず大鳥先輩はこのイケメンを求めてしまうようです。恐らく「マナ」に原因があると考えられますが、これは大鳥先輩がこのイケメンに対し自由意志を働かせられないことを意味します。今まで大鳥先輩は「自分はどうしたいのか」という問題について常に悩んできました。オルベリオの使命に失敗していたときもそうですし、新しい日常に戸惑っていたときもそうですし、地球を新たな故郷にしたいと願っていたときもそうでした。12巻の第58話までで、大鳥先輩はそれらの問題を一通り克服できたと言えます。そうなると、次は「自由意志の通じない問題にどう立ち向かうか」という課題が立ち塞がってきます。謎のイケメンは、その問題を体現している存在でもあるのです。

一方、岬一にとっても、イケメンは大いなる障害となります。

なぜならイケメンだからです。

……笑いたくなりますが笑いごとでもありません。大真面目にこのイケメンは岬一にとって恋敵なのです。真面目に。

そもそも大鳥先輩は「誰かを大切に思う気持ち」が分からない女の子でした。しかし、12巻まで至ってその問題はほぼ解決しています。解決しているということは「私は広瀬くんのことだけ考えてる」という発言は心底広瀬くんのことをいつも想っているというそのままの意味であり、つまり「広瀬くんのことが好き」と紙一重の状態です。

そう、今の大鳥先輩は、理論上(理論上?)恋愛ができるのです。

勿論同じ時を共に過ごしてきた岬一が一番の筈です。しかし、そこに大鳥先輩の自由意志を奪うイケメンが登場します。こうなると大鳥先輩の気持ちだけでは足りません。岬一の力が、いえ想いが必要なのです。

岬一は【低身長】、【ノー筋肉】、【一般的日本人】なのに対し、

相手は【高身長】、【マッチョ】、【金髪イケメン】です。

気持ちで勝たねば先はありません。ここで大鳥先輩をおいそれと奪われるようであれば鎖星もままならなくなるでしょう。

早い話、岬一がちゃんと告白しないと地球は滅びます。

なのに岬一は奥手なのです。

そんな危険に気づくこともなく、岬一は「俺が地球の王様になればいいんだ!」と言い始めます。大丈夫かなー心配だなー。地球と大鳥先輩を天秤にかけるような展開が来るとも中々思えませんが、王様になろうと躍起になる余り大鳥先輩のことを忘れないよう気を付けて欲しいものです。

【今日から王様!……王様……?】

最後に、岬一の「地球の王様になる!」発現に軽く触れて、12巻のざっくりまとめを終わりにしたいと思います。

先に結論から言ってしまうと、かなり危ない発言です。

そもそもオルベリオ人が生き残っていないという事実確認にさえ「そうなのかな…」と大鳥先輩が疑問を呈したりしていますが、10巻でゾキが言った通り、王様はその星の下位の存在を強制的に従えます。ゾキが岬一の心臓を欲したのも最終的にそれが目的でした。岬一は「俺が勝ったら地球の王さまの方が偉いってことで」と軽く言っていますが、岬一が勝った場合、下手をすればキルシスかヤフマナフ、どちらか岬一に負けた星系の全存在が岬一ただ一人の支配下に置かれます。地球制服どころではなく星系支配です。そんな大勝負に相手が真正面から付き合うとも限りません(ゾキは力を信奉しすぎてたので…)。既にキルシスが大鳥先輩に対しオルベリオ語を用いて干渉を行っている以上、搦め手で攻めてくる可能性も高いです。

そんな状況下で、果たして地球の王さまを目指して大丈夫なのでしょうか。正直、別に地球の王さまにならずとも鎖星自体は可能かもしれないのですが……。

宇宙人の基準で王さまになるということは、岬一が元いた地球での日常から少なからず乖離してしまうことも意味します。地球での日常を大事にできるようになった大鳥先輩とは真逆の姿勢です。下手をすればこの方針が大鳥先輩と岬一の距離を大きくしてしまう恐れもあります。先のイケメン事件も併せて考えると、この決断が後々大きな問題も引き寄せそうです。

とは言え、岬一自身が自ら現状の解決案を提示し、それに向けて努力しようとしているというのは、そのまま物語を完結へと加速させる効果も果たしています。物語全体の決着に向け、いよいよ岬一達が”攻め”に転じた、そのスタートとも言える一幕だったでしょう。

ぼっち侵略はこの12巻で「最終章」に入ったと、ぼっち侵略12巻の帯や紹介文で説明されています。作者の小川先生もTwitter等でそう言及されているので間違いはないでしょう。今まで挙げてきた問題はともかく、完結するための最低条件は「港を閉じる(鎖星する)」ことだけです。それでも、すぐに完結までは辿り着かなさそうです。12巻が2年目入学式の日で終わっていることを考慮しても、まだまだぼっち侵略、続いていきそうですね。13巻も、楽しみにしていきましょう。

多分15巻~20巻ぐらいで終わりそうな気はします……感覚で……。

 

以上で、ひとりぼっちの地球侵略12巻ざっくりまとめは終了です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。また13巻でお会いしましょう。ではでは。