ぼっちQ&A!~ひとりぼっちの地球侵略感想ブログ~

月刊少年サンデー『ゲッサン』にて好評連載中の漫画『ひとりぼっちの地球侵略』について、徒然なるままに感想を書いていくブログです。

ひとりぼっちの地球侵略11巻についてざっくりまとめてみた。【前編】

こんにちは、さいむです。

今回は12月12日に発売された『ひとりぼっちの地球侵略』11巻の内容をざっくりまとめて語ってみたいと思います。よろしくお願いします。

なお、ざっくりまとめようとしたものの少し長くなってしまったので、今回は【前編】と【後編】の2本立てになりました。ご了承ください。

1.11巻で繰り広げられる3つの戦い。

ぼっち侵略11巻は、戦闘シーンの多さが過去最高となっており、ほぼ戦いっぱなしです。なので、誰が誰とどう戦っているか、シーンごとに切り分けて考えていくことが、11巻を分かりやすく読み解く上で大変重要になってきます。

11巻で注目すべき戦いは大きく分けて3つです。

①大鳥先輩VSマーヤ

➁アイラVSゾキ&ゴズ軍団

③岬一VSゾキ(凪)

……え、リコがいない?まぁ、彼は岬一君を支えているので……。

ともあれ、この3つの戦いに焦点を当てることで、ぼっち侵略11巻のテーマを読み解くことができます。今回、【前編】ではこのうちの①、大鳥先輩とマーヤの決着について考えていきたいと思います。

なお、第51話『開戦』はこの戦いの状況を作り出すための前置きなので、今回は解説しません。ここに関しての具体的な読み解きは詳細読解の記事までお待ちください。

2.大鳥先輩VSマーヤ~10巻で遂げた成長の再確認~

さて、まずは第52話『展開』~第53話『海の底にいるような深呼吸を』まで繰り広げられる、大鳥先輩とマーヤの戦いです。ここではマーヤとの決着だけでなく、大鳥先輩の成長という面でも大きな進展が見られる部分でもあります。しっかり読んでいきましょう。

ゾキによって1対1の状況を作られた大鳥先輩。マーヤは今度こそ大鳥先輩を殺そうと迫りますが、大鳥先輩はマーヤと戦おうとはしません。それどころか、

「こないだ会ったときよりすごく嬉しそう。何かいいことあった…?」

と、マーヤに寄り添うようなことまで言います。マーヤは凪がゾキに完全には取り込まれていないことに「希望」を感じているのですが、大鳥先輩はそれを「嬉しそう」だと感じ取ったわけです。これは、10巻で大鳥先輩が以前リコに投げかけられた台詞を重ねることでマーヤの心に迫ったのと同じことをしています。10巻の戦いを通して大鳥先輩は相手の気持ちを受容し、理解して共感できるようになったのですが、第52話ではそのことを再確認する作業が行われていると言えるでしょう。

それを示すのが60~65Pでのやり取りです。マーヤは踊るようにマーヤの魔法を弾く大鳥先輩に嫉妬を覚えるのですが、それに対して大鳥先輩は岬一と凪のような兄弟の絆が自分には無いことに嫉妬しているんだと、自分の気持ちを吐露します。マーヤが自分に嫉妬していることに対して、自分の嫉妬を伝えることで自分と相手には分かり合える、共感し合える部分があるんだということを伝えているのです。ここも10巻でできるようになったことの繰り返しになっています。

その後大鳥先輩はマーヤによって右腕を切断されてしまいます。ここで右腕を切断されるのは凪が右腕を大鳥先輩によって切断されたことと重なるように描かれています。あのときの凪は、岬一と心が通じ合ったと思った瞬間に岬一が撃たれ、大鳥先輩の暴走の余波で右腕を潰されてしまったわけですが、ここでの大鳥先輩もマーヤと「嫉妬」という感情で通じ合った直後に右腕を切断されることでそれをなぞる構図になっているのです。

3.「責任」と繋がりの切断

ここから第53話。マーヤは自分や142人の姉妹を踏み台にした「責任」を大鳥先輩に痛みと死という形で償わせようとします。それに対して、大鳥先輩は「自分にはその責任はない」とキッパリ言います。ここが11巻においてかなり重要なポイントです。

7巻126Pからの岬一と凪のやり取りを一旦思い出してみましょう。岬一は10年前の大鳥先輩についてこんなことを言っています。

「今日、大鳥先は10年前の出来事を「知った」けど「思い出した」わけじゃない。繋がりが…一度絶たれてるんだ。」

「俺はあの時、先輩も一度死んだんだと思う。」

「街は元に戻っても死んだ人は生き返らせてもらえなかった! でも、それで今の先輩を責めても…」

大鳥先輩が10年前の出来事について責任を負わなくていい理由について、岬一は

・そのときの記憶が無く、繋がりが絶たれていること

・大鳥先輩が一度死んでいること

の二つをここで挙げています。口論をしていた凪もここについては特に反論していません。繋がりが絶たれてしまったことにまで責任を負わなくてもいい、ということがぼっち侵略という作品における一つの考え方なのです。

しかしそれは、10年前の出来事をまるで無かったことのように扱うようにも思えてしまいます。今までの繋がりを無視し、捨てることにならないのか、ということがマーヤが糾弾している内容になるわけです。

4.相手の気持ちの受容、共感、そしてその先へ。

大鳥先輩はその後、ガソリンスタンドを爆破することで右腕を焼灼止血し、マーヤのナイフを奪ってぶん投げることでマーヤとの戦いに勝利します。大事なのはこの次の台詞です。

まず、責任は取れないということを繰り返し言った上で、こう言います。

「私だって生きたいもの! お姉さんと同じように…」

この台詞はとても重要です。これは、大鳥先輩が相手に共感した上で、さらにそこに自分の気持ちを重ねて言えるようになった、ということを示しているからです。10巻では共感できるようにはなったものの、そこから更に自分の気持ちを相手に伝えるところまではいきませんでした。大鳥先輩はマーヤの気持ちに共感しつつも、責任を負えという主張を否定することができたのです。

なお、これは9巻で針山の告白を断ったときとは少し事情が違います。あのときの大鳥先輩は針山の主張は理解できても気持ちは理解できていません。だから今の自分の気持ちではなく昔の自分を真似るという方法で針山を振ったのです。認識のズレを知り、大鳥先輩が相手の変化、つまり心の動きを感じ取れるようになったのが9巻なのです。

5.「継ぐ」ということ、「生きる」ということ。

また、ここの大鳥先輩の主張は、ぼっち侵略という作品における「継ぐ」という行為の意味も説明したものにもなっています。それは簡単に言えば、「過去の人々の生き方や伝統に自分の願いや生き方を積み重ねて生きる」ということでになります。

7巻でのアイラの祖母と大鳥先輩のやり取りを思い出してみましょう。アイラの祖母はエラメアという惑星から離れ、地球を第二のホームとして余生を過ごしています。また、エラメアのようなただ観測する人間になることは辞め、地球を守るために戦うと宣言します。その一方で孫娘であるアイラのことを大事にし、マシェフスキー家の伝統を守っています。

ここでアイラの祖母は、エラメアの伝統の「一部」を受け継ぎつつ、地球という新たな居場所での生き方もアイラに継がせています。何を継ぐのかは自分で選んでもいいのです。ただ伝統に縛られるのではなく、自分の望んだ生き方を伝統に新たに重ねることが「継ぐ」という行為なのです。更に、何かを「継ぐ」ための具体的な方法は「生きる」ことです。アイラの祖母は定期的に長年の眠りにつくことで地球の歴史を見守ってきました。何かを受け継ぐためには、最低限その受け継いだ本人が生きなければなりません。だからアイラの祖母は今まで生き続けようとしてきたのです。

11巻の大鳥先輩に話を戻しましょう。大鳥先輩はオルベリオの人々の「生き続けたい」という希望を背負った生まれた存在です。その使命には失敗し心臓も失ってしまったものの、彼女は未だにオルベリオの生き残りです。また、大鳥先輩は地球を新たな故郷として岬一と一緒に生きていきたいという望みを抱いてもいます。これはオルベリオ人の伝統ではなく、彼女自身が考え、選んだ生き方です。

自分がオルベリオの末裔であること、そしてそこにいた人々の希望や犠牲を背負って生まれてきたこと。大鳥先輩が継ぐことにしたのはそういった「業」であり、「宿命」なのです。それらを継ぐための方法は「地球で岬一と共に生き続けたい」という自分自身の思いを遂げることであり、そうであればこそ、大鳥先輩はマーヤに殺されるわけにはいかないのです。

一方、マーヤやゾキの願いは「過去の因縁の破壊」という点で共通しています。重要なのは過去の全てを破壊しようとしている点です。大鳥先輩やアイラの祖母は伝統の一部分だけを受け継ぐ判断をしたものの、それ以外の伝統を破壊したりはしておらず、自分達が何を受け継がなかったのかもしっかり覚えています。何かを破壊し、繋がりを断ち切ろうとする姿勢は大鳥先輩の願いとは真っ向から対立するものであり、その意味でもお互いの対決は避けられないものだったのです。

この大鳥先輩とマーヤの姿勢の違いは、二人の戦いにも実は表れています。マーヤは大鳥先輩の右腕を切断しました。自らが嫉妬した、因縁の対象の切断であり破壊がその行為に表れています。対する大鳥先輩は、その傷を焼灼止血することで傷を塞ぎ、マーヤの呪いを上書きしました。傷そのものの消滅ではなく、呪いのみを自らの行為、生き方で上書きして食い止めたのです。「業」――傷を背負いつつも、責任――破壊や切断、「呪い」には抗い、自らの生き方をそこに上書きしていく。二人の戦いの決着は、お互いの願いがぶつかり合った結果だったのです。

 

【前編】はここまでになります。第53話の後半~第55話で描かれるこの他の戦いについては、また【後編】で取り扱いと思います。お楽しみに。ではでは。

 

P.S.【後編】完成いたしました。こちらのリンクから続きをお読みください。

thursdayman.hatenablog.com

 

ぼっち侵略コラム:11巻発売によせて~夢と空想の迷い子~

こんにちは、さいむです。


今回は、ぼっち侵略11巻発売によせて、ぼっち侵略について軽いコラムを書きたいと思います。

1.宇宙の夢と空想、孤独と死。

書くのですが、まずは「宇宙」について簡単に書いてみたいと思います。「地球」に対する「宇宙」の話です。
宇宙はまだ人間が進出しきれていない場所で、どこまでも広がっている、無限とも言える空間です。人間が住める惑星があるかもしれないし、地球外生命や、宇宙人の文明があるかもしれません。空想がどこまでも広がっていく、夢の宝庫とも呼べる場所です。
一方で、人間は宇宙空間において生身で生き続けることができません。宇宙服やスペースシャトルなど、膨大な技術的補助を受けなければ10秒と生きることは叶わないでしょう。一度地球の重力から解き放たれてしまい、宇宙に放り出されると、再び大地に立つことすら困難です。他の星に辿り着くこともまず有りえず、永遠に宇宙空間をさ迷うことになります。夢と空想の宝庫である宇宙は、同時に孤独と死をイメージしてしまう場所でもあるのです。

2.大鳥先輩という、夢と空想の迷い子。

さて、『ひとりぼっちの地球侵略』のヒロイン大鳥希(以下親しみを込めて大鳥先輩)は、オルベリオという星からやってきた宇宙人です。彼女は地球侵略のために機械に育てられ、一人で地球にやってきました。そのため”他人”という存在が何なのかよく分かっていません。地球人と同等かそれ以上の一般知識を有してはいるものの、他人や仲間とは何なのかという体験に基づいた知識や、他人が何を考えどんな気持ちなのかを感じ取り、理解する能力が身についていないのです。
この『ひとりぼっちの地球侵略』という作品において、大鳥先輩について「ひとりぼっち」という言葉は二つの意味合いを持ちます。一つは「他人や仲間という概念を理解していないため、地球の中で”オルベリオ人”という枠組みに囚われて孤立してしまう」という意味での「ひとりぼっち」。もう一つは、「他人や仲間の気持ちを理解してあげられない(そもそもその発想が無い)ため、一人でから回った言動しかできない」という意味での「ひとりぼっち」です。

 

大鳥先輩は宇宙人なので、宇宙というものから受け取れる夢や空想をいっぱいに詰め込まれた存在として描かれています。ミステリアスで、可愛く、とても強い。しかし一方で、大鳥先輩は宇宙が持つ孤独と死のイメージを強く抱いた存在でもあります。二つの「ひとりぼっち」に縛られているだけでなく、傷を負うことも構わず敵と戦おうしたり、過去に一度心臓を広瀬くんに渡した後、死んだように眠りについたりしています。大鳥先輩は、宇宙というものの持つ二つの側面をある意味で体現したキャラクターなのです。


そしてここで重要なのは、「宇宙」から連想する夢や空想は、私達が住む「地球」から見た場合の話であるということです。宇宙からやって来た大鳥先輩は、別に宇宙に憧れたり夢を持ったりはしていません。彼女は寧ろ地球を含めた宇宙全体でひとりぼっちになっていて、広瀬くんを初めての他人、仲間としてそこから地球を新たな故郷にしたいという夢を持つようにもなっていきます。実は、大鳥先輩は宇宙からやってきた存在であるがゆえに、宇宙の孤独と死の側面だけしか実感することができていないのです。
先述した通り、宇宙には夢が広がっています。宇宙人の大鳥先輩は私達が宇宙によせる”宇宙人”という夢から生まれたキャラクターであると言えます。しかしそれ故に「ひとりぼっち」に縛られ続けてしまう大鳥先輩は、宇宙に我々が抱く夢や空想から生まれた迷い子なのです。

3.宇宙から地球へ、空想から現実へ。

このような状況下で、大鳥先輩はどうすればよいのでしょうか。その鍵は、この物語の主人公、広瀬岬一くん(以下親しみを込めて広瀬くん)にあります。広瀬くんは松横市でずっと生きてきた男の子で、祖父の喫茶店を継ぐという夢を持っています。この夢は、広瀬くんが宇宙ではなく地球側の夢を持っているということを意味します。彼は宇宙の空想ではなく、地球の現実を志向する少年なのです。一方で広瀬くんは、大鳥先輩の心臓を持っており、彼女と強い繋がり、絆があります。そのため、彼だけが大鳥先輩と仲間として接しつつ、二つの「ひとりぼっち」から解放してあげることができます。これこそが、夢と空想の迷い子を孤独から救い出す方法なのです。
大鳥先輩は、地球の松横市で、広瀬くんの隣で生きていくために戦い、色々なことを学び、成長していきます。宇宙という空想を抜け、地球という現実の中で生きていく。『ひとりぼっちの地球侵略』とは、大鳥先輩を二つの「ひとりぼっち」から解放し、大鳥先輩が地球で生きていけるようにしてあげる物語なのです(具体的な解決方法については以前書いた記事に譲るとしましょう)。

4.ある一つの問題、そして11巻へ……。

さて、ここまで書いてきた大鳥先輩の話には、一つ問題があります。それは、「宇宙への夢や空想を、地球(現実)への帰属という形で無にしてしまっていいのか?」ということです。ぼっち侵略は、今まさにこの問題に挑もうとしています。広瀬くんの兄である凪、そして彼を乗っ取りつつあるゴズの王ゾキゴッド・バシデロス・ゴズ(以下親しみは特に込めずにゾキ)の存在がそれです。
凪は心臓に重い病気を抱えており、いつも死と身近に生きてきました。彼はぼっち侵略の登場人物の中では、大鳥先輩以外で唯一死というものの影響を強く受けています。それは、先述した宇宙の持つ一側面でもあります。凪は大鳥先輩と広瀬くんの向かう方向に強く異を唱えられる人間なのです。そしてその右腕を乗っ取ったゾキは広瀬くんの(元は大鳥先輩のものだった)心臓を奪い、宇宙の支配構造を新たに作り変える野望を持っています。凪とゾキ、10巻現在では未だはっきりした関係が語られない二人ですが、大鳥先輩達とは逆の方向、端的に言えば宇宙を目指しているという点において、彼らははっきりと大鳥先輩達を阻む存在であると言えるのです。
ゾキは自らの野望のために松横市を破壊しようとしています。大鳥先輩と広瀬くんは彼を止めなければなりませんが、ゾキが死ぬと凪も一緒に死んでしまいます。凪はあくまでも地球人であり、広瀬くんの兄弟、家族の一員です。彼を殺せば、広瀬くんは自分が大事にしてきた家族という現実の一部を自ら切り捨てることになります。果たして大鳥先輩達はゾキを止められるのか、そして凪に対してどのような決断を下すのか。それは単なる物語の決着のみならず、先述した問題への答えにもなるでしょう。6日後に発売が迫るぼっち侵略11巻で、いよいよそれが描かれようとしています。


『ひとりぼっちの地球侵略』11巻は12月12日発売です。皆さん是非買って、この物語の続きを読んで頂ければと思います。連載されているゲッサンを購読していますが、とても面白い内容になっていることは保証できます。お楽しみに。


以上、ぼっち侵略11巻発売を祝してのコラムでした。ではでは。