ひとりぼっちの地球侵略10巻発売直前! 今までのおさらいをしておこう!
こんにちは、さいむです。
今回は、いよいよ来月に発売が迫っている『ひとりぼっちの地球侵略』10巻を前に、7~9巻を中心としたおさらいをしていきたいと思います。お話もいよいよ佳境に差し掛かってきたところですが、今押さえておきたい重要なポイントはどこなのか、幾つか考えていきましょう。
1.大鳥先輩の成長。~相手の気持ちを想像して行動する、ということ~
まずは大鳥先輩についてです。この漫画が大鳥先輩の成長を軸に展開されてきた作品であることは以前からこのブログで書いてきましたが、7巻からは1~6巻とは異なる角度からの成長が描かれています。7巻の台詞を抜き出してみましょう。
(48ページ)「広瀬くんは私じゃないよ。」
「あなたは広瀬くんでしょ。」
「何を考えたの?」
広瀬くんが大鳥先輩の好きそうなものを想像し、パスワードを何とか解いて秘密基地へ辿り着いたときの台詞です。簡単に言うと、このときの大鳥先輩は「相手の気持ちを想像して、それに対応した行動を取る」ということが理解できていないのです。元々大鳥先輩は誰とも接することなく成長してきたせいで「他人」や「仲間」という概念もよく理解していませんでした。相手の気持ちを考えるという発想が無いのも仕方ないとも言えます。しかし7巻の中で彼女は「地球を新たな故郷として広瀬くん達と生きていきたい」という望みを持ってしまったので、他人の気持ちを想像するという課題は避けて通ることができません。7巻は大鳥先輩が「他人」や「仲間」とは何なのかを一通り理解し終えたお話であり、次に彼らの気持ちを想像して自分の行動に生かせるか、という新しい課題への挑戦が始まったお話でもあるのです。
8巻で大鳥先輩はマーヤの作った夢で彼女の心に触れ、相手の気持ちというものに直に触れることになります。その経験は9巻に繋がり、自分に告白をしてきた針山を「昔の自分に戻ってみせる」という方法でふることになります。その後敵との戦闘の中で広瀬くんの成長を認める場面では、彼の言葉と行動を通してその真意を理解してちゃんと受け止めることができるようになっています。7巻では分からなかったことが分かるようになってきているのです。
この辺りは広瀬くん側の成長や心臓の問題も絡んでくるので少し事情が複雑ですが、以前の記事でも説明したことなので割愛させて頂きます。まとめると、「大鳥先輩が相手の気持ちを考えた行動が取れるようになれるかどうか」が重要なポイントの一つであり、9巻を踏まえて彼女がどうなっていくかが見所になってくる、ということです。
2.広瀬くんの心臓~「貰ったもの」から「自分のもの」へ~
二つ目の見所は広瀬くんの心臓です。本当は大鳥先輩の成長とも絡むポイントなのですが、そうなると色々ややこしい説明を挟まないといけないので敢えて分けました。7巻から9巻は、心臓というのが二人にとってどんな意味を持つのかを掘り下げていくお話でもありました。10巻ではそれがどう変化してくかも、見所の一つです。
広瀬くんの心臓は10年前に大鳥先輩から譲り受けたものであり、1巻で大鳥先輩が彼を仲間と決めつけた最大の要因でもあります。7巻において「仲間」や「他人」といった考えについてのしがらみをほぼ全て捨て去った大鳥先輩は、広瀬くんが自分の仲間である理由を「自分の心臓を持っている」ことただ一つに求めました。
しかし8巻でマーヤに「広瀬くんが大鳥先輩と出会わなかった=心臓を譲り受けなかった夢」を見せつけられた大鳥先輩は、広瀬くんを心臓も含めたあらゆる前提を捨て去ってただの男の子として見るようになります。それと同時に、広瀬くんも松横祭りでの大鳥先輩とのやり取りやヘントゥーリオとの戦いを通して、「この心臓はもう自分のものなんだ」という思いを強めていきます。
そして、9巻で大鳥先輩は針山に告白され困惑します。その理由は彼女が恋愛に関して疎いのもありますが、広瀬くんを普通の男の子として見るようになった以上、広瀬くんと針山を区別する方法が大鳥先輩になかったから、ということもあります。そんなとき、広瀬くんが少しずつ努力する中で心臓の力を自分のものにしつつある姿を見て、「広瀬くんが自分と一緒にいるために努力し続けてきた証」として心臓を捉え直します。
これは広瀬くんの側も同様で、ヘントゥーリオによって無理やり力を引き出されたことも含めて段々と心臓の力に馴染み、自らの物とすることで不器用ながらも大鳥先輩の隣にようやく立てるようになっています。9巻に至って、心臓は大鳥先輩の手を段々と離れ、広瀬くん自身の問題となりつつあるのです。
一方で、新たに登場したゾキをはじめ心臓を狙う敵の宇宙人の魔の手も絶えません。心臓がどうなっていくか、その間で揺れ動く大鳥先輩と広瀬くんの関係がどこに向かっていくか、10巻に向けてしっかり注目していきましょう。
3.凪の思惑~ゾキよりも凪の方が怖いよね~
3つ目のポイントは、ズバリ凪です。マーヤでもゾキでもありません。凪です。ある意味において、凪こそがこの物語の命運を握っていると言っても過言ではありません。7巻からの彼の行動を振り返っていきましょう。
7巻では、凪は実は10年前に自分の両親が死んだことが理由で大鳥先輩を憎んでいるのではない、ということを明かします。彼は岬一と共に在ることを望んでいて、大鳥先輩にそれが脅かされることを懸念していたのです。
しかし、心臓に病を抱える彼が10年前に良しとした岬一との在り方は、自分と岬一だけの世界を作り、その中で共に終わりを迎える「パーフェクト・ワールド」でした。のらりくらりと言動を変えてばかりで本心を掴ませない凪ですが、この「パーフェクト・ワールド」は今後の彼を理解するうえで欠かせないキーワードとなるでしょう。
8巻から9巻にかけて、凪は覚醒し始めたゾキによって意識を奪われつつあります。しかし9巻でのマーヤとのやり取り等を見ても凪はゾキに抵抗できていないのか、それとも結託しているのか怪しい状態です。あるいは7巻で言うように仮面をかぶり、ゾキさえも欺いているのかもしれません。彼がこれから起こる事態の間隙を上手く突けば、もう一度「パーフェクト・ワールド」をより完璧な形で作り出せるかもしれません。未だ見えてこない彼の真意にこそ、この作品の行く末がかかっているのです。
なおゾキについてですが、そこまで深く気にすることはないと思われます。9巻のラスト見る限り何もしなくても全部喋ってくれそうですからね、あの人。マーヤも……もう復讐とかやめてのんびり生きていけばいいんじゃないでしょうかね、本当、うん。きっと楽しめると思うよ?
・まとめ
以上、ぼっち侵略10巻に向け、今までのおさらいをしてきました。作中の季節も冬に入り、物語は確実に集束してきています。大鳥先輩と広瀬くんのこの先を見届けるためにも、もう一度既刊を読み返してみるのもいいかもしれません。きっと何か、新しい発見があると思います。
『ひとりぼっちの地球侵略』最新10巻は2016年6月10日発売予定です。本屋に並ぶそのときを、楽しみに待っていましょう。それでは。
(2016年6月10日更新)
ひとりぼっちの地球侵略10巻、無事発売されました。ざっくりとしたまとめを新たに書きましたので、よければ下のリンクからどうぞ。
時緒、かける少女(6)
(6)
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
右手を揺らされる感触で時緒は目を覚ました。
「あ……」
目の前に、座り込んで寝ていたらしい自分に呼びかける妹がいる。
「お姉ちゃんやっと起きたー。どうしたの、なんでここで寝てるの?」
「え……?」
どうやら二人の様子を眺めているうちに一緒にうたた寝してしまったようだった。
どのくらい寝ていたのだろう。ずり落ちた眼鏡をかけ直す。
「えーと……二人の様子を見に来てたの。一緒に寝ちゃったみたいだね」
「お姉ちゃん寝る準備してないでしょー、いけないんだー」
普段の仕返しとばかりに妹がちょっぴり意地悪そうにそんなことを言う。
見れば弟も起きていたらしく、何やら窓の方をしげしげと見ている。
「そうね、ちゃんと寝る準備しないといけないね」
そういいながら時緒は立ち上がる。何故か両足に疲れが溜まっていた。
今日のお祭りはそんなに歩いただろうか。
ふと、気になったことを時緒は妹達に尋ねる。
「二人とも、どうして起きちゃったの?私のせい?」
「ううん。お兄ちゃんがね、花火見たんだってー」
妹の返事を聞いて時緒は不思議に思った。
花火? そんなイベント、松横市祭りにあっただろうか。
仮にあったとしても初日に行ってしまうものなのだろうか。
「花火、どこで上がってたの?」
弟に聞く。
「あっち。赤いのがヒューって上がってった」
弟は窓の向こうを指さした。指先が示す方向の空を覗いてみる。
花火らしきものは何も見えない、星の瞬く綺麗な夜空があった。
見渡してみるが、花火が撃ち上がった後の煙さえ見えない。
「何にもないよ? 音も聞こえないし……」
「あれー……? でも、そういえば音が全くしなかったなぁ……」
「本当に上がったの?」
「本当だもん。凄く明るくなって、それで起きたんだ」
もう一度空を見てみる。やっぱり何もない。何となく、人差し指を花火に見立ててすーっと下から上へなぞってみた。
ふと、脳裏に赤い炎が閃いた。
思わず指を窓から離す。何か、夢を見ていた気がする。浅い眠りだったから夢の一つや二つ見ると思う。でもなんだろう、もやもやして思い出せない。いつもなら忘れそうな夢なんて何とも思わないのに、それは良くない気がしてつい記憶を辿ろうとしてしまう。
炎。背中。
バシン
『あー、スッキリした』
そうだ、あの文化祭の日。私はキャンプファイアーの傍で岬一くんを蹴っ飛ばすアイラ先輩を見かけたんだ。それきり炎を見つめたままだったアイラ先輩の背中は、何となく大きく見えた。
でもこれは夢の内容じゃないような気がする。本当はどんな夢だったんだろう。やっぱり忘れてしまったみたいだ。
……ただ。今思い出せたことは、夢と同じくらい大事なことだと直感した。
「おーねーちゃーん?」
ハッとする。しまった、夢を思い出そうとするあまりまたぼんやりしてしまっていた。これ以上妹に怪しまれるのは姉としての沽券にかかわる。
「ごめんごめん、そうだね、言う通り、寝る準備をしてくるね」
時緒は今度こそ部屋を出ていく。妹達の元気次第では、明日のお祭りに備えなくてはならない。姉が一番の寝不足ではどうしようもなくなってしまう。
ドアを閉める直前、妹が言った。
「お姉ちゃん、明日もお祭り行こうね!」
ドアノブを握る右手が止まる。思わず小さく笑ってしまった。
「うん」
そう返してドアを閉め、居間に向かう。
……なんだ、やっぱり明日も忙しくなりそう。
時緒は妹達と見て回るお祭りの新たなルートを考えながら、一人くすくすと笑っていた。
翌日の松横市は快晴だった。
時緒は妹達と松横市祭りを見て回っていた。先日と違って今日は3人とも朝早く起床できたため、比較的自由にお祭りを見物することができたのだ。
日光で暖まっていく陽気を、秋風が適度に冷ましていく。チチチ、と鳥のさえずる声が聞こえてくる。
先日と比べてあまり大きなイベントがなかったおかげか、お昼頃には一通り妹達の見たいものを回りきれてしまった。
こうなるとお昼が暇になる。
「お姉ちゃん、お昼どこか連れてって」
妹の唐突な一言に時緒はちょっと驚かされた。
「屋台じゃなくていいの?」
「昨日沢山食べたからもういい。それよりお店の中で食べられるものがいい」
どうやら午後に向けて一休みしようという算段らしい。この先日ほどではないとはいえ、祭りの混雑に加えてお昼どきに空いているお店なんてそうそう思いつかない。ただし、時緒もどこかお店でゆっくりしてみたいのは事実だった。
そして実のところ、時緒もお祭りついでに行っておきたい場所があった。
「分かった。空いてて美味しいお店があるから連れてってあげる。少しだけ歩くけど、いい?」
わーい、と妹は時緒を繋いだまま飛び跳ねた。弟も賛成し、3人は移動を始める。
「そこってどんなお店なの、お姉ちゃん」
妹が聞いてきた。
「えっとね、喫茶店っていうの。分かる?」
「きっさてん?」
首をかしげる妹。流石に聞いたことのないお店の種類だったようだ。
「お茶を飲んだりしてゆっくりできるお店のこと。食べ物も出てくるからお昼ご飯も食べられるよ」
「ご飯美味しい?」
「美味しいよ」
本当は美味しいかどうかはまだ知らない。でも岬一くんはおじいさんの作る料理はとても美味しいと話していたし、間違いないと思っていた。
岬一くん。
文化祭の買い出し以来、あのお店に行ったことはなくて少し緊張する。驚かれないだろうか。
ううん、きっと大丈夫だ。
慌てないで、ゆっくりしていこう。
……お店が見えてきた。道沿いに並ぶ建物の中でも一回り大きい。『天の海』の看板が外に出ている。
そうだ。ご飯の前に一杯だけ、珈琲を頂こう。
そんなことを、思いついた。
…………。
「あー! こないだ更衣室に入ってきたお兄ちゃん!!」
「え!?」
「!?!?」
「岬一……お前、どういうことだ……?」
「違うんだじいちゃん、これはちょっと前にあった人違いのことで……!」
「ご、ごめん岬一くん……!」